在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活
医療・健康・介護のコラム
高温多湿の季節、食中毒から身を守るために
気温と湿度の高い季節になりました。この季節にいっそう注意しなければいけないのが食中毒です。私の栄養アドバイスは、「ゆるっと楽しく」をモットーにしていますが、「食品の衛生管理」に関しては、「ゆるっと」は許されないと考えています。
気温の高い春や夏に多いイメージの食中毒ですが、実際には1年を通して日本各地で起きています。「学校給食」などの大規模なものから、「友達とのバーベキュー」など小規模なものまで幅広く発生し、ちょっとした油断が食中毒につながってしまうものです。
今年2月に、東京都立川市の小学校給食で発生した「きざみのり」による集団食中毒は、みなさんもご記憶のことと思います。
この件は、病院や施設の食品衛生管理を任されている管理栄養士の間でも話題になりました。どうやら、きざみのり工場の作業員が、焼きのりの裁断機に「素手でのりを投入していたこと」が原因だったようです。
厚労省は給食施設などに対して、「大量調理施設衛生管理マニュアル」を発行し、様々な義務付けを行っていますが、もしこのマニュアルに基づいてきざみのりを製造していたら、加熱調理後の「焼きのり」を、工場の作業員が素手でふれるということはありえません。
「まさか、親子丼の仕上げののりが原因とはね……。そんなところにノロウイルスが混入していたなんて、想像もできなかったよね」
「私たちがどんなに加熱温度を守って調理していても、トッピングにノロウイルスが混入していたら、防ぎようがないよね」
管理栄養士の友人たちとは、そんな会話でもちきりでした。
バーベキューを安全に楽しむために
ただし、衛生面の厳しさが、味や食感を犠牲にする可能性もあります。
皆さんも、病院や施設で出された「鶏肉の照り焼き」などが、「硬くてパサパサだな~」と感じた経験があると思います。これは大量調理のマニュアルで「中心温度が75℃で1分以上加熱する」ことが指示されているからです。給食施設では、このマニュアルに基づいて、中心温度計で温度を確認しています。鶏肉は加熱時間が長くなると、身が締まって硬くなってしまいますよね。
でも、硬いものが苦手な高齢の方や、十分な 咀嚼 力がない幼児の給食では必ずしも好ましくありません。そこで、管理栄養士はいつも、なるべく硬くならないよう、蒸したり、「あんかけ」にしたりして、あの手この手で「おいしく、軟らかく、安全に食べられる料理」を提供できるよう、悩みながら献立を考えています。
「鶏肉の生焼け」による食中毒は、「カンピロバクター」という細菌が原因になることが多いのですが、ごくまれに「ギランバレー症候群」という、手足がマヒして筋力が低下する難病の原因になることがあります。
親しい仲間たちとのバーベキューで、「鶏肉を焼こう」と考えることがあると思いますが、生焼けの鶏肉が原因で食中毒が発生し、誰かが四肢麻痺にでもなってしまったら……取り返しがつきません。
そうはいっても、せっかく楽しいアウトドアのバーベキューなのに、誰かが「中心温度計」なんかを持ち出し、鶏肉の中心温度を調べはじめたら、雰囲気は台無しになりますよね。
私も、緑に囲まれた公園で、氷水で冷やした缶ビールを片手に、家族や友人とバーベキューを楽しむことがありますが、「生の鶏肉」は焼かないようにしています。
火力の強いガスや電気に比べ、バーベキューで使う木炭による調理では焼きムラが生じやすくなります。また、お酒を飲んでほろ酔い状態で調理すると「このくらい焼けばいいかなぁ?」と「焼き具合の判断能力」が低下する可能性もあります。
ふだんの私は料理をしながらお酒を飲むことはまずありません。肉類を焼くときには慎重に加熱していますが、お酒が入ると焼き加減もいいかげんになるかもしれません。どうしても屋外で鶏肉を食べたい場合には、すでに加熱調理されている「やきとり」を使用したり、あらかじめ自宅で十分に火を通してから持参したりして、バーベキューの場では、「仕上げの焼き色をつける」だけにします。
食中毒から身を守る3原則は、菌を「つけない」「ふやさない」「殺菌する」です。そのためには、ひとつひとつの調理工程を見直すことが必要です。
しかし、菌を「ゼロ」にすることは不可能です。自身の免疫力を高めて、もし菌が体内に入ってきても、やっつけることができるようにしておくことも大切です。
次回は、この「食中毒予防の3原則」を自宅のキッチンで実践するためのテクニックをご紹介します。
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