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医療部発

コラム

繰り返してはいけない被害者差別

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  医療部 原隆也

 本紙6月8~15日付の医療ルネサンスで「血が止まりにくい病気」をテーマに連載しました。

 代表的な病気に「血友病」があります。凝固因子と呼ばれる血小板を補強して血液を固めるたんぱく質が生まれつき足りないため、血が止まりにくくなります。現在、根本的な治療法はなく、障害につながる関節内出血などを防ぐため、凝固因子製剤を自己注射する補充療法が主流です。

 この血友病には、悲しい歴史があります。1980年代にこの凝固因子製剤の原料となった血液がHIV(エイズウイルス)に汚染されていたことで、治療を受けていた4割の患者さんが感染するという悲劇が起こりました。

 感染だけでなく、血友病患者に厳しい偏見の目も向けられてしまいました。この薬害エイズ問題で、患者らが国と製薬会社を相手取った訴訟が和解して、昨年3月で20年がたちました。

 今回の連載では、その後の治療がどのように進展したのかをリポートしました。凝固因子製剤は、血液を精製する際、加熱したうえでウイルスなどの異物を完全に除去する技術が80年代半ばに確立しました。さらに血液を原料とせず、凝固因子を人工的に培養した製剤の普及も進んでいます。

 「治療は進んでも、血友病から連想されるのは、重い関節障害やHIVと、周囲の認識は30年前と変わっていない」と、大阪医療センター感染症内科医長の西田恭治さんは指摘します。

 血友病の原因となる遺伝子を持ち、血友病の子どもを産む可能性がある女性を「保因者」といいます。西田さんは保因者のケアに取り組んでいます。保因者は、「子どもが血友病で生まれるかもしれない」という後ろめたさから、結婚や出産をためらうことが少なくありません。西田さんが血友病の治療は進歩していて、かつてのような関節障害やHIVの心配がないことなどを保因者に説明すると、「今の話を5年前に聞いていたら、私の人生は変わっていました」と話した人もいたそうです。

 先日、血友病をテーマにしたセミナーが東京都内で開かれた際、西田さんの講演を聞きました。講演で初めて知って、驚いた事件がありました。80年代にエイズ患者が確認された地域で起きたパニックです。

 その地域の一つに、私の故郷に近い長野県松本市がありました。患者の個人情報から容体までが、「2次感染予防」の名目でマスコミを通じ、明らかにされました。

 周辺の温泉地では宿泊のキャンセルが相次ぎ、他県の施設では松本ナンバーの車の利用を拒否する例まで出たそうです。当時、私は小学生でしたが、身近なところでこのようなことが起きていたとは全く覚えていませんでした。

 続けて西田さんは、「福島第一原発の事故で福島ナンバーの車が忌避されたことは、エイズパニックの時から人々の意識が何ら変わっていないことを示している」と指弾しました。私も含め、セミナーの参加者は、じっと聞き入りました。

 マスコミにもエイズパニックの一端をあおった責任があります。それが様々な差別や偏見につながり、今も患者や家族に傷痕を残しています。

 福島第一原発事故による避難者へのいじめや差別は、現在進行形の問題です。もう同じことを繰り返さないためにどうすればいいのか、真剣に考えるべき時に来ています。

原隆也

 原隆也(はら・りゅうや)

 感染症や先端医療を担当。横浜支局では大学医学部の博士論文を巡る謝礼金授受問題を手がけた。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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