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民生委員 どうサポート
「支援担当」夜間も協力…大分市
困りごとを抱えた住民の身近な相談相手になる民生委員は、源流となった制度が岡山県で誕生してから、今年で100周年の節目を迎えた。高齢化の進展などによって「地域福祉の担い手」としての重要性が増す一方、負担の重さが課題になっている。民生委員をサポートする大分市の取り組みを取材した。
■増す重要性
大分市の民生委員、津高教子さん(74)は、担当する地域で一人暮らしの高齢男性が、自宅で倒れたと聞いて駆けつけたことがある。困ったことに、本人が病院に行くのを拒んでいた。
津高さんは、市の福祉保健課に連絡。担当者は、介護や生活保護など他部署の職員と連携し、すぐに動いてくれた。「自宅に来て、救急車に乗るよう説得してくれた。その後は生活保護の受給ができ、生活も安定している」と安心している。
同市の民生委員は約850人。平均で1人当たり約280世帯を担当する。高齢夫婦のみの世帯、単身高齢者の世帯は合計で全体の2割を超え、見守りや困窮者支援が活動の柱だ。認知症の症状などによって起きる住民間のトラブルも、課題となっているという。
そこで市は、民生委員をサポートするため、関係する11課に課長補佐以上の「支援担当者」16人を配置している。委員から支援要請を受けると関係する課の支援担当者が協議し、素早く対応を決める。夜間や休日の対応が必要な場合もあるため、支援担当者の自宅電話番号の一覧を各校区の民生委員の代表者に配布している。
こうした取り組みは、厚生労働省の「民生委員・児童委員の活動環境の整備に関する検討会」の2014年の報告書で「市町村はこのような体制づくりも検討すべきだ」と言及された。検討会委員を務めた全国社会福祉協議会の池上実・民生部長は「行政が夜間や休日も協力する仕組みは、民生委員にとって安心感が大きい」と指摘する。
■「手引」充実
さらに同市は民生委員の活動内容をQ&Aにまとめた約50ページの冊子「活動の目安と考え方」を4年前に作り、委員に配った。現場の声も反映して内容を更新し、昨年12月配布の最新版は52項目に上っている。
ケース別に具体的な対応例や関係する行政の連絡先を示す一方、民生委員がやらなくてもいいこと、やるべきではないことなども明示しているのが特徴だ。
「ゴミ出しや掃除、洗濯、買い物を頼まれても、基本的には行う必要はありません」「一人暮らしの人が救急車で運ばれる時の同乗は状況により判断を。救急隊は同乗者なしでも搬送します」など。高齢化や単身世帯の増加、格差や貧困など地域の課題は多く、委員への負担が過重になりかねないことから、求められる活動を明確にして余計な負担を減らすねらいがある。
「お金を貸してほしいと言われても、はっきり断りましょう」といった助言もあり、状況に応じ、社会福祉協議会が低利で資金を貸してくれる制度などの利用を促すよう勧めている。同市民生委員児童委員協議会の定宗瑛子会長(78)は「中途半端ではなく、はっきり書いてある」と評価する。
民生委員は3年ごとに一斉改選されるため、経験の浅い新任の人も多く、同市では全体の約3分の1を占める。冊子は、新任委員の助けにもなるように作られ、市福祉保健課の和田宏さんは「白黒をはっきりつけて書く一方、自由な活動を阻害しないよう『目安』の形にした」と話す。
<民生委員> 民生委員法で定められた無報酬のボランティアで、児童福祉法が定める児童委員も兼ねている。全国で活動する約23万人のうち、60歳以上が全体の8割を占める。近年では、6対4の割合で女性が多い。地域住民の私的な相談を受けるため、守秘義務が課される。任期は3年。
社会的孤立対策に課題
一人暮らしの高齢者など周囲とのかかわりが希薄な「社会的孤立」状態にある人への支援が、地域社会の課題となっている。
昨年、全国民生委員児童委員連合会が実施した「全国モニター調査」では、民生委員の4人に1人が、任期の3年間に、社会的孤立状態の人への支援を行ったと回答。こうしたケースが抱える課題を尋ねたところ、「認知症」「近隣住民とのトラブル」などが上位に入った。
また、「必要な介護や生活支援を受けていない」世帯が2割近くあった。社会的孤立の場合、民生委員が訪問しても詳しく事情を聞けなかったり、支援を拒否されたりするケースも多い。
活動の難しさ、負担の重さから、なり手不足の状況もみられる。委員の欠員率は3.7%(昨年12月)。人材確保のためにも、行政による支援の強化が必要だ。
(滝沢康弘)
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