解説
もっと知りたい認知症
間違えても「よかったね」
6月初め、「注文をまちがえる料理店」という、ちょっと風変わりな名前のレストランが2日間限定で都内にオープンしました。来店したのは、事前に招待された約80人だけ。ところが、お客さんがツイッターでその様子をつぶやくと、瞬く間に世界中に拡散していき、海外からも取材の依頼が殺到しました。
このレストラン、実は注文をとったスタッフが全員、認知症なのです。ハンバーグを頼んだのにギョーザが出てきたとか、あっちのお客さんには、セットのサラダがついてなかったけど、こっちのお客さんには二つついてたとか、あらゆるミスが発生しました。それでも怒り出す人はなく、お客さん同士が声を掛け合い、料理を融通し合って、おなかを満たしたそうです。
今週は、ヨミドクターで若年性認知症の丹野智文さん(43)のコラムがスタートしました。連載を始めるに当たって、丹野さんに、どんなことを読者に伝えたいか聞いてみると、「認知症の人が『間違う』ことを認めて、受け入れてほしい」という答えでした。
世界でも真面目で通っている日本人は、小さなミスをとても恐れます。認知症の人が困らないよう、何でも先回りしてやってあげる優しさにもあふれています。ところが、その思いやりが、認知症の人から「できること」を取り上げてしまう場合があるというのです。
もしも周囲の人が、道に迷うのを心配して外出の度に付き添ったり、あるいは外出するのを止めたりしたら、丹野さんの生活はとても窮屈になるでしょう。「一人ではどこにも行けない」という状況が、自尊心を傷つけることも想像に難くありません。
丹野さんも、最初は道に迷うと落ち込んでいたそうです。「でも実際には、私が道を間違えて帰宅が30分遅くなったとしても、誰も困らないんです。遅刻してはいけない待ち合わせがあるなら、その分、早く家を出ればいい。そのことに気づいたら、とても気持ちが楽になりました」と言います。
ハンバーグを頼んだけど、認知症のおばあちゃんがギョーザを出してくれたから、食べてみたらおいしかった。認知症の仲間が道に迷ってちょっと遅刻したけれど、無事に落ち合うことができた。そんなとき、「よかったね」と笑い合えたら、私たちももう少し楽しく暮らしていけるような気がします。
「注文をまちがえる料理店」(フェイスブック:https://www.facebook.com/ORDER.MISTAKES/)は、9月には規模を拡大して開かれる予定で、介護やマスコミ、飲食など、様々な業界の有志でつくる「実行委員会」が、準備を進めています。私も次こそは、足を運びたいと思っています。
(ヨミドクター副編集長 飯田祐子)
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