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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

貧困と生活保護(49) 生活保護の大問題は、低すぎる捕捉率

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所得のみで15%、資産を考慮して32%の捕捉率?

 現実の保護世帯数を、保護基準以下の世帯数で割った数字は、次の結果です。

所得のみで判定した場合   D/(B+D)=15.3%

資産も考慮して判定した場合 D/(C+D)=32.1%

 親族の援助など他の要素もあるので、正確な意味での捕捉率にはならないと厚労省は説明しましたが、ひとつの目安にはなります。

 ただし、ここで用いた保護基準額は、生活扶助、教育扶助、高校就学費の合計です。住宅扶助、医療扶助などは、この計算上の保護基準額に入っていないので、実際の低所得世帯はもっと多く、生活保護による捕捉率はもっと低いと考えられます。

 厚労省は「同様の調査を定期的に実施し、その動向を把握していく」と説明していましたが、その後、こうしたデータ分析は公表されていません。

研究者の推計でも、捕捉率は2割に満たない

 生活保護基準で線引きした貧困率や捕捉率については、1990年代から何人かの研究者が推計してきました。その多くは、所得のみの判定で10%から20%の間でした。

 最近では、山形大学の戸室健作准教授が、総務省「就業構造基本調査」のデータをもとに、生活保護基準で見た貧困率、捕捉率を都道府県別に計算しました(「都道府県別の貧困率、ワーキングプア率、子どもの貧困率、捕捉率の検討」)。

 それによると、所得のみで判定した2012年の捕捉率は、全国平均で15.5%でした。先の紹介した厚労省の推計と、ほぼ一致しています。都道府県別で高いのは大阪23.6%、北海道21.6%、福岡20.0%、東京19.7%、高知18.7%の順。低いのは富山6.5%、長野6.6%、山梨7.1%、岐阜7.9%の順。かなりの地域差がありますが、高くても2割台にすぎません。

 戸室准教授の計算は生活扶助、住宅扶助、教育扶助、一時扶助の合計額で判定しており、医療扶助、高校就学費などは入っていないので、実際の捕捉率はもう少し低いはずです。

厳しい運用、冷たい対応、恥の意識……

 生活保護の捕捉率の低さは、制度があっても利用しにくいことを示しています。

 なぜ、そうなるのか。一つは資産要件の運用の厳しさです。現金・預貯金が保護基準の1か月分より多いと申請しても通りません。クルマの保有は求職・通勤・通院などの事情がないと認められず、車がないと日常生活が不便な地域では大きなネックになります。

 福祉事務所の対応も問題です。利用できないと思わせる説明を職員がすることや、冷たい態度を取ることがあります。

 生活保護の利用には、原則として本人の申請が必要です。けれども政府・自治体の広報は不十分で、制度の正しい知識・理解が伝わっていません。それどころか、恥の意識が社会に広く存在しています。申請後、親族に対して、申請者を援助する意思があるかどうかを問い合わせるのも、利用しにくくする壁になっています。生活が苦しくても我慢する人が多いわけです。とりわけ住民同士が互いをよく知るムラ的な風土の地域では、心理的な抵抗感が大きいでしょう。

 必要な時に生活保護を利用することは、憲法上の権利です。遠慮しないで利用できるよう、まずは行政からの積極的な周知広報を行うことが重要だと思います。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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