宋美玄のママライフ実況中継
医療・健康・介護のコラム
実は珍しくない、お産で「あわや」
1歳7か月の息子がイヤイヤ期にさしかかっています。機嫌がいい時と悪い時の差が激しく、家じゅうが完全に振り回されています。機嫌が悪い時はご飯を全然食べず(本心は食べたいのに、へそを曲げてしまっている)、逆にテンションが上がり過ぎて、ぬいぐるみをお皿の上に載せたり、椅子の上で立ち上がったり、つかみ食べができないものまでつかんでぐちゃぐちゃにしたりして、ロクなことがありません。最近まで私たち親を振り回してきた5歳の娘が、今はしわ寄せを食って、我慢している様子。イヤイヤ期の息子、恐るべし、と思っています。
前回は、無痛 分娩 をはじめとするお産を安全に行うための医療体制についての意見を述べました。医療体制は、少しずつ変わっていくことはあっても短期間では抜本的に変わりません。現在の医療体制で、少しでも安全なお産が行われるには、医療スタッフ一人一人が、急変時に対処できるようスキルアップしていく必要があります。
私自身、担当していた分娩で「あわや」という事態に何度かぶつかりました。
妊娠中の子宮は血流量が多いため、出血が始まると、数分のうちにリットル単位で血を失ってしまいます。これを手当てするための血液製剤を準備している間に、妊婦さんの脈が触れなくなりました。舌が口の奥に引き込まれる舌根沈下が始まり、瞳孔も開くという、非常に危険な状態になりました。舌根沈下があると、気道が狭まり、呼吸困難や意識レベルの低下が始まります。この時は、全館放送で駆けつけてくれた病院中の医療スタッフに助けられました。
妊産婦は、さまざまな原因で急変や心肺停止を起こすことがあります。が、小規模の産院でこうした事態が起きても、駆けつけてくれる他科のドクターはいません。周産期の医療スタッフが適切な初期診療や蘇生を行えるかどうかが、患者さんの命に直結します。
「防ぎ得た周産期の死亡撲滅」「周産期医療に携わるすべての人に共通言語を」というコンセプトで、Perinatal Critical Care Course(PC3:ピーシーキューブ)という講習が始まりました。りんくう総合医療センター(大阪府泉佐野市)産婦人科の荻田和秀部長(大人気マンガ「コウノドリ」の主人公サクラ先生のモデルでもあります)がリーダーです。
私も少し見学しました。救命救急の医師の指導もあり、急変時に必要な技術や知識、考え方を実地で学べる素晴らしい講習会でした。今ある医療体制で、救える命を一人でも多く救いたいとの思いからの活動は、とても意義深いものだと思います。このほかにも、全国でいろいろな活動が行われているでしょう。
周産期医療の現場に、母体を救える能力の高い医師が増えて、防ぎ得た妊産婦と赤ちゃんの死亡が一人でもなくなるよう願っています。
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PC3で検索してみて、医学生と研修医の時にACLSに参加したことを思い出しました。 出血性ショックを主にした産科のエマージェンシーは局所と全身の...
PC3で検索してみて、医学生と研修医の時にACLSに参加したことを思い出しました。
出血性ショックを主にした産科のエマージェンシーは局所と全身の反応及び、その合併の対策と胎児の救出に分けられると思いますが、事前にスクリーニングで基礎疾患や遺伝の大きな問題をチェックして、大規模病院に送ってしまえば、残る大多数の患者の想定しうる病態はおのずと絞り込むことができて、対策の薬剤や手技も絞り込みができますね。
野球で言えば、ストライクに直球しか投げない投手なら打ちやすいのに似ています。
(だからこそ、情報のない飛び込み産婦が大変で、産科業務を逼迫するのでしょう。)
いま、断らない救急の是非を巡って、現場医師と経営陣の対立している病院もあると聞きますが、「絞り込みと対策」という問題点は一緒です。
人員や設備の足りない病院でそれをやると、特に都会では「想定される疾患の見逃しにより、患者を救命する時間を奪ったこと」を訴訟で指摘されうる問題が発生します。
救急を担うのはジェネラリストが正しいのか、専門医チームが正しいのかは意見の分かれるところだと思いますが、どちらにしても救命率が上がるほうが望ましいわけで、この問題の解決に関連して、放射線科と救急科の一部が統合する動きを見せています。
僕は放射線科医崩れで専門医もありませんから、どこの職場や役職の誰が仕事をしようが知ったことではありませんが、昨今目にする医療組織内外のトンデモ事件を見ていると、こういう西洋医療の価値を高める取り組みの報道とか増えてもいいのかなと思います。
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