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コラム

『やっぱり歯はみがいてはいけない 実践編』森昭さん、森光恵さん

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歯磨きよりも大切なことがある

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森昭さん(右)と森光恵さん

 お口のケアへの関心が高まっている中で、刺激的なタイトルをつけたものだが、そのかいもあってか前作の「歯はみがいてはいけない」は昨年の出版以来、増刷を重ねる反響を呼んでいる。著者の森昭さんは京都府舞鶴市の歯科クリニックの院長。「歯磨きは、歯ブラシに歯磨き剤をつけてゴシゴシやるのが一般的ですよね。それが歯磨きだと考えるのは間違いです」という思いが、タイトルにこもっている。今作は前作で紹介した考え方のハウツーをまとめたものだ。

 歯磨きは何のためにするのか。「食べカスを取るため」と答えたら、それは「×」。森さんによると、口の中の細菌の塊であるプラーク(歯垢しこう)を除去するためというのが正解だ。もちろん、細菌の栄養になる食べカスを取ることにも意味はあるが、最も大切な目的が細菌の除去なら、歯磨きよりも大切なことがある。それはフロスと歯間ブラシで歯と歯の間や歯周ポケットを掃除すること。歯ブラシで歯をゴシゴシやるだけでは、この部分の3割程度しかきれいにならないと言われている。「予防歯科について勉強すれば、お口のケアの目的は細菌を減らすことなのは明らかです。なぜ、日本では歯磨きばかりが強調されてしまったのか。先進国を見ると、日本の口腔こうくうケアはガラパゴスですよ」と嘆く。

唾液は天然の歯磨き剤

 そしてもう一つ、森さんが強調しているのが唾液の働きだ。「食事をすると、歯の表面のエナメル質が酸で溶けやすくなります。それを30分から1時間ぐらいかけて中和し、再石灰化と言って歯を強くしてくれるのが唾液です」と言う。そのほかにも食べカスを洗い流し、細菌の働きを抑え、口の中を保護するといった多様な機能がある。「食後は口の中で舌を回して唾液で口の中をきれいにしましょう。食後すぐに歯をみがいてしまっては、作用が強い食後の唾液を捨ててしまいます。唾液は天然の歯磨き剤です」と強調する。だから、お口のケアに基本的には歯磨き剤は不要という考えだ。

 では、どういう時に歯磨き剤を使うのか。森さんの診療では必ず、顕微鏡で口の中の細菌の種類を確かめる。虫歯菌、歯周病菌、カンジタ菌など菌の種類は人によって違う。その人の口の菌の抑制に適した薬理作用のあるプロ用の歯磨き剤を処方するのだという。「市販の歯磨き剤を使うとさわやかだとは思いますが、プラークにさわやかさは不要です。それはエチケットの問題です」と言う。

 プラーク除去の観点では、歯磨きのタイミングも通念とはちょっと違う。通常の歯磨き指導は毎食後とされることが多い。森さんは、起床後と就寝前が大事だという。夜寝ている間は唾液の分泌が低下し、細菌がたまりやすくなる。だから、寝る前に歯磨きをして細菌の量を減らし、起床後は増殖した細菌を洗い流すということだ。日中は、唾液の力でプラークが作られるのを比較的予防できるので、夜間のケアを重視しなければならない。

クリニックに併設の歯科グッズ店ではフロスの使い方を指導

 前作の「歯はみがいてはいけない」(森昭著)を読んだ読者からは、「どんなフロスや歯間ブラシを、どういうふうに使えばいいのか」といった問い合わせがたくさん届いた。そこで今年6月に出版したのが、「やっぱり歯はみがいてはいけない 実践編」だ。こちらは、クリニックに併設する歯科グッズの店を運営する歯科衛生士で妻の光恵さんとの共著になる。フロスや歯間ブラシ、歯ブラシの種類、使い方、歯茎からの出血など症状別のケアを具体的に紹介している。クリニックに歯ブラシや洗口液などの歯科グッズを置いているところはあるが、店舗まで併設して品数をそろえているのは珍しい。光恵さんは「歯ブラシは30種類以上、フロスも8種類置いていますが、患者さんごとに適したものがあります。診療中だと、患者さんにフロスの使い方や選び方などをゆっくりと指導している時間がないので、店に歯科衛生士を常駐させて、その人に合った歯ブラシなどを紹介して、フロスは体験してもらっています」と言う。

 本を出版した後で読者からは、「本の中では、歯を磨くなとは書いていないじゃないか」という声も寄せられた。その通り。わざわざ歯磨きやフロスの指導ができるように店を開いているくらい、歯磨きも含めて適切なお口のケアには力を入れている。歯磨きに偏ったケアに注意を喚起したかったということだ。本が反響を呼んだことから、遠方から4時間もかけて受診に来る患者まで出てきた。「遠くから来ていただいても、私は名医でも何でもない普通の歯科医。できるのは歯磨きやフロスの指導ですから、なんだか申しわけなくて」と森さんは戸惑っていた。

 フロスや歯間ブラシでのケアの重要性や唾液の機能については議論の余地はなさそうだが、歯磨きのタイミングなどについては異論を持つ歯科医もいるだろう。“森流”をひとつの提案と受け止めて、専門家の間で議論を深めて情報発信をしていただきたい。

(講談社+α新書、各840円、税別)

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