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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

コラム

がん患者さんに栄養のサポートを(2)

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 皆さんは「栄養のサポート」と聞いた時、どんなイメージを思い浮かべますか。

 例えば、スポーツジムのトレーナーが「筋肉を増やす食生活」についてアドバイスすること。または病院の管理栄養士が「糖尿病の食事療法」について解説し、「血糖値が上昇しにくいおやつ」のアドバイスをすること。どちらも「栄養のサポート」です。

 私も、在宅療養中の患者さんに「何を、どれだけ、どんなふうに摂取するか」を伝えています。学生の頃に栄養学に出会い、仕事を始めてからも「栄養を摂取する」ことについてさまざまな角度から学んできました。それが、在宅医療に関わる中で「栄養を摂取しないケア」があることを知りました。

 がんの患者さんの中には、「味覚障害」や「食欲低下」を起こし、なかなか思うように食事が取れなくなる方がいます。消化器系のがんがあったり、がんの転移などで腸閉塞を起こしていたりすると、食べたものをうまく消化したり、吸収したりできなくなるのです。その場合は輸液(点滴)で栄養を補給することになります。

 食欲低下の原因が「吐き気」や「痛み」であれば、それらを緩和することで食事を取ることも可能ですが、「何としてでも栄養を取らないと」と考えるあまり、本当は飲みたくない栄養剤を、鼻をつまんで無理やり飲んでいる方もいらっしゃいます。そんな時は、立ち止まって考えてみます。

 「私だったら、どうしたいだろうか」「無理やり栄養剤を飲みたいだろうか」と。

 答えは「ノー」です。

 私は、今年4月から、現在の職場「むらた日帰外科・WOCクリニック」(仙台市)に加え、「医療法人心の郷 穂波の郷クリニック」(宮城県大崎市)に月1、2回勤務するようになりました。穂波の郷クリニック院長の三浦正悦先生は、クリニックでの外来診療のほかに末期のがん患者さんの訪問診療も行っています。これまで多くの患者さんを 看取みと ってきました。

がん患者さんに栄養のサポートを(2)

左から穂波の郷クリニック三浦正悦院長、緩和ケアコーディネーターの大石春美さんと

 三浦先生に、「栄養剤の投与や輸液の点滴をしないという判断は、どのような兆候がきっかけになるのですか」と聞くと、「まずは手足のむくみ、さらに胸水や腹水がたまった場合です」と言われました。患者さんが体内の水を処理できない状態になると、とても苦痛を感じるようになるそうです。「 たん が増えてきた患者さんは、呼吸が苦しくなることもある。このような状況が予想される場合は、あらかじめ点滴の量を減らしたりして、苦痛を起きにくくします」と教えてもらいました。

 つまり、「水分が体の中であふれた状態」になったら、点滴の量を減らすのです。

 体が水分を処理しきれなくなってきた時は、最期が近づいてきていることが多いのです。この段階では「栄養を取るために食べる」のではなく、思い出の料理や大好きな食べ物を「おいしく味わうために生きる」というように、考え方を転換する必要があると思います。もう、栄養剤を無理やり飲む必要はなくなります。

 ある日、三浦先生から「訪問栄養指導に行ってほしい」と、50代の末期がんの男性患者さんを紹介されました。70代のお母さまが支えていましたが、飲み込みの障害があるために、口から食べるのが難しくなっていました。

 初めて男性にお会いした時、「好きな食べ物は何ですか」と聞くと、「エビが好きです。食べるのは無理だって分かっているけど」とおっしゃいました。

 そこで、飲み込みやすくなるよう工夫した「エビチリのムース」をお母さまと一緒に調理しました。

 「す、すごい!これはエビチリだ!おいしいなぁ。びっくりだよ」。男性はむせることなく飲み込んで、目を真ん丸にして喜びました。

 ほどなくして男性は容体が悪化し、他界しました。

 数か月後、お母さまを訪ねると、「あの子は本当にエビが大好きで、昔からエビばっかり食べていたのよ」と教えてくれました。

 「昔って、子供の頃ですか?」。「そうよ。3、4歳の頃から。『エビ、エビ』って言ってね」と、クスクスと思い出し笑い。お母さまの脳裏には、幼い頃の男性の姿が映っていたのでしょう。

 「だからね、最期にエビチリが食べられて良かったわ。あんなに喜んでいたもの。ありがとうね。お世話になりました」と言われた時は、涙をこらえられませんでした。

 最後のワンスプーンとなったエビチリは、お母さまにとって息子さんとの「おいしい思い出」として残ってくれることと思います。

 私は、これも「栄養のサポート」の一つの形だと思います。たとえ栄養が十分に取れなくても、おいしいものを味わうことが「心の栄養」につながります。

 もし、自分が最後のワンスプーンを食べるのなら…。やっぱりビールと手羽先かなぁ。今の季節なら高級サクランボの「佐藤錦」もいいですね。

 みなさんは、人生の最期に何を食べたいと思いますか?

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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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