文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

疑問だらけの「こども保険」構想(下)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 自民党の若手議員らが提案した「こども保険」の構想。新しいアイデアとして関心を集めていますが、そもそも社会保険制度として成り立つかという疑問について、 前回のコラム で述べました。今回は、そのほかにもいろいろな問題点があることを説明します。

社会保険方式は格差を広げる

xf3795092581o_225

 日本では、貧富の格差の広がりが問題になっています。

 勤め人の社会保険料(年金・医療・介護・雇用)は、標準報酬月額(月給で決まる)や標準賞与額(ボーナス額で決まる)の何パーセントといった定率負担方式で、計算の基礎となる報酬月額・賞与額には上限があります。つまり、月給やボーナスがいくら多くても、支払う保険料は上限までなのです。国民年金の保険料は定額です。国民健康保険の保険料は、定額と定率の組み合わせになっています。

 このため、所得が多いほど税率が高くなる累進課税方式の所得税に比べ、社会保険方式では、収入に対する実質的な負担割合は低所得層ほど重く、高所得層ほど軽くなります。これは格差の拡大につながります。

児童手当をもらえない人も?

 現行の児童手当は、税金を主な財源とする「社会手当」の一種で、条件を満たす保護者すべてに支給されます。しかし社会保険制度にすると、給付を受けるのは保険加入者に限られるのが原則です。保険料を払わなくても同じように給付されるなら、社会保険の体をなさないからです。

 厚生年金保険に加入している勤め人なら、保険料は給料から天引きされるので漏れは少ないでしょうが、問題は自分で納める必要のある国民年金加入者です。保険料の滞納が続いていると、給付がゼロまたは低額になる可能性があります。生活に困って保険料を滞納してきた人が児童手当をもらえないかもしれません。現に国民年金保険料の納付率は、免除の人を別にして6~7割にとどまっています。

 また、年齢・手続き漏れ・住所がないなど何らかの事情で国民年金に加入しなかった人は、給付を受けられない可能性があります。たとえば、10歳代で本格的に働いていない人に子どもができた場合、厚生年金・国民年金とも加入対象外で、小委員会の構想では、こども保険の加入者にはなれません。そのため、特例として給付を受けられる制度を設けない限り、何ももらえないことになります。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

原記者の「医療・福祉のツボ」の一覧を見る

最新記事