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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

行政と医学の言葉の乖離が、患者の不利益に

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行政と医学の言葉の乖離が、患者の不利益に

 医学上は判定不能あるいは必ずしも重要でないことを、診断書の上で判断を求められ、 () むなく記述したことで、患者さんが不利な状況になった事例があります。

 障害年金診断書に、医師が、「治癒固定」という判定を記述したために、本来障害年金を支給されるべき患者なのに、却下されてしまったのです。

 この話は障害年金の概要を知らないと、わかりにくいのですが、現在は関わりのない人でも、いつ傷病に出合うかわかりませんので、健康なうちに知っておくことは大事です。

年金は2階建てになっていることをまず押さえておきましょう。つまり、障害1級と2級は基礎年金(1階)なので、どの年金の加入者でも基準に合えば支給されます。

 今回の話は、2階建ての2階部分に相当する3級と、障害手当金に関することです(視覚障害に関する基準表のその部分を掲げます)。

 この2階部分があるのは厚生年金と共済組合の加入者、つまり一般会社員と公務員で、国民年金だけの人は該当しません。不公平なようですが、これが現実です。

 障害手当金は、初診日から5年以内に傷病が治り、障害の要件に該当している場合に支給されます。つまり、治るまでの間、「障害のため不自由で大変だったでしょう」という意味の一時金が支給されるのです。

 ただし、障害手当金相当の基準でも、「傷病の治らないものについては3級に該当する」ということばが、障害認定基準の「障害に当たっての基本的事項」に明記されています。

 ここで、医師の「治った」か、「治っていない」かの判定が響いてきます。「症状固定」=つまり「治った」=と記してしまうと、3級にはならず手当金だけになり、「治っていない」のであれば3級になる可能性があるのです。

 3級では、報酬比例の年金額が、障害が存在する間は支給されます(現在の基準では最低保障額58万5100円)。手当金は報酬比例の年金額の2年分が、一時金として一度だけ支給され、それ以後は全く保障されないので、障害者にとっては大きな違いになります。

 ある患者さんが、障害手当金相当の障害を有していて、障害年金診断書を提出しました。診断書を作成した医師は、「傷病は治っておらず、改善の見込みはない」と記載しましたが、障害認定審査官は医師に問い合わせた際に、「症状が安定し、長期にわたってその疾病の固定性が認められ、医療効果が期待し得ない状態を『症状固定』といいますが」と医師に詰問し、「それなら『症状固定』でもいい」という回答を得ました。

 私には、その審査官が3級にしないように誘導尋問したように見えます。なぜ、この審査官が患者さん、つまり障害者に寄り添った思考をせずに、意地の悪い誘導をかけたのか不思議でなりません。

 医師としては、「医学的にはどちらでもよく、重大な話ではない」と考え、この判定によって扱いに差が生ずるとは思いもよらなかったのでしょう。

 私もかなり勉強して、このことがやっと理解できました。よほど暇で、好奇心のある医師でないと関知できないことです。

 このような意味のない 乖離(かいり) は何とかしなくてはいけません。それも、障害のある患者さんに有利になるように……。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

参考資料: 日本年金機構HP「障害認定に当たっての基準」

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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