文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

疑問だらけの「こども保険」構想(上)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

xf3795086718ov2

 新たな社会保険制度として「こども保険」をつくろうという自民党内の動きが注目されています。厚生年金・国民年金の保険料に、こども保険料を上乗せして加入者と事業主から徴収し、それを財源にして児童手当の金額を増やそうという案です。

 しかし、社会保険方式にする理屈が立つのか、大変疑問です。構想は、事業主が現在、児童手当の財源の一部を負担していることにも、高等教育の費用をどうするのかについても触れておらず、稚拙という印象をぬぐえません。

 子ども・学生・若者への公的サポートはぜひとも拡充するべきですが、支援のしかたや財源の確保には、保育・教育費用の無償化、税方式による調達を含めて、いくつも方法があり、ていねいに幅広く検討するべきでしょう。

児童手当の現状と歴史

 児童手当制度は現在、次のようになっています。

20170615-OYTET50013-01

 児童手当は、1972年の創設時は第3子以降の5歳未満に限定され、低所得の多子世帯向けでしたが、しだいに対象範囲が広がり、所得制限も緩和されていきました。2010年度からは、民主党政権が「子ども手当」に衣替えして、中学生年齢まで拡大、所得制限なしで子ども1人あたり一律に月1万3000円を支給しました。これを自民党は「ばらまき」と批判。与野党協議を経て、12年度から所得制限つきの新たな児童手当に変わりましたが、支給対象の年齢は狭めませんでした。

自民党の若手議員らの案

 こども保険は、小泉進次郎氏ら自民党の若手議員でつくる「2020年以降の経済財政構想小委員会」が今年3月に提言したものです。

 構想では、厚生年金保険に加入する働く人と事業主から、それぞれ報酬の0.1%、国民年金加入者から月160円程度を徴収します。すると年間3400億円の財源になり、小学校入学前の子ども約600万人分の児童手当を月5000円上積みできる、と試算しています。

 将来は、厚生年金保険の加入者と事業主から報酬の0.5%、国民年金加入者から月830円程度の徴収に引き上げます。すると年間1.7兆円の財源になり、児童手当を月2万5000円上乗せできて、幼児教育・保育の保護者負担が実質なくなる、としています。

 この方式は、社会保障の世代間公平に役立ち、消費税率のアップや教育国債の発行による財源拡充に比べて、経済や財政への影響が少ない――とも説明しています。

保険の原理に反する

 子育て支援の財源を増やそうと考えるのはよいとしても、この程度の粗い案が自民党や政府で検討対象になり、すぐに飛びついて賛同する識者がいるのは不思議です。

 最大の問題は、保険の原理に反する点です。人生の過程ではいろいろな事態が起き、生活を危うくする可能性があります。そういうリスクを社会的に分散して分かち合うのが公的な社会保険制度です。民間保険と違って強制加入が基本ですが、保険の原理は同じで、原則としてリスクが現実になった時に給付が行われます。

 日本に現在ある社会保険は、以下の5種類です。

▽厚生年金保険・国民年金=高齢になったり、障害が生じたり、配偶者と死別したりしたときの年金給付。厚生年金保険は労働時間・日数が一定以上の雇われて働く人が加入。国民年金は20~60歳が加入。

▽医療保険=病気やけがをしたときの医療サービスの給付。国民全員の加入が原則。

▽介護保険=主に加齢に伴う介護サービスの給付。40歳以上が加入。

▽雇用保険=失業したときの金銭給付。労働時間・日数が一定以上の雇われて働く人が加入。

▽労災保険=勤務中や通勤中の事故などによる病気、けがに対し、医療費や休業補償などを給付。雇われて少しでも働く人は全員加入対象で、保険料は事業主負担。

 いずれも加入するのは、リスクが現実化する可能性を否定できない人々です。

 こども保険の場合、子どもの存在をリスクと見るのかという感情的な反発もありますが、それはさておくとしても、年金保険料を払うすべての人から本当に上乗せ徴収できるでしょうか。高齢者の多くは外れるとしても、すでに子育てを終えた人はどう扱うのか。子どもをつくれない人、つくる気がない人、ずっと単身の人など、子育てに伴う出費リスクのない人々から保険料を取るのは、社会保険制度としてスジが通りません。

 この構想の問題点は、そもそもの考え方に大きな矛盾があることにとどまりません。所得格差を拡大させ、生活に困っている人が児童手当をもらえなくなる懸念については、次回のこのコラムで解説します。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士(大阪府立大学大学院)。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

原記者の「医療・福祉のツボ」の一覧を見る

最新記事