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介護保険、負担一部増へ…支払い能力に応じ
改正介護保険法などを盛り込んだ「地域包括ケアシステム強化法」が5月26日の参院本会議で可決され、成立した。今回の見直しは、収入の比較的高い高齢者が介護サービスを利用した際の自己負担割合を2割から3割に引き上げるなど、応能負担を色濃く打ち出したのが特徴だ。
「世代間や世代内の負担の公平、能力に応じた負担を求めることで、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる制度が持続できる」。5月中旬の参院本会議で、塩崎厚生労働相は答弁し、法案成立に理解を求めた。
能力に応じた負担を強める改正の一つが、自己負担割合の引き上げだ。介護保険サービスの場合、利用者負担は原則1割。これが、2015年8月から収入が一定以上ある人は2割になった。さらに今回の改正で、2割負担の人のうち、特に収入の高い人は18年8月から3割に引き上げられる。
厚労省によると、対象は単身世帯で年収340万円以上、夫婦世帯で年収463万円以上。3割負担の対象者は約16万人だが、自己負担額には上限(月4万4400円)がある。そのため、支払額が増えるのは約12万人(利用者全体の約3%)だ。
ただ、応能負担が行き過ぎると、本当に必要なサービスの利用控えにもつながりかねない。
厚労省が衆院厚労委に示した資料では、自己負担が1割から2割に引き上げられた人の約4割にあたる約16万7000人がサービスの利用回数を減らしていた。野党の批判に対し、塩崎厚労相は、1割負担の人でも同様の傾向であるとして、「顕著な影響はみられない」と答弁した。ただ、与野党は参院厚労委で、「十分な配慮が必要」として、負担増がサービスの利用頻度に与えた影響などの調査を、政府に求める付帯決議を採択した。
もう一つの柱が、収入の高い会社員らにより多くの介護保険料を求める「総報酬割」の導入だ。今年8月から段階的に実施する。
総報酬割の対象は現役世代(40~64歳)の保険料。従来は、従業員数に応じて、企業やその従業員の保険料を決めていたが、今後は、企業が従業員に支払う報酬の総額が高いほど、保険料も高くなる。
同省によると、20年度の平均月額保険料は、健保組合に加入する大企業の会社員で約360円、共済組合に加入する公務員で約980円増える見通し。一方、協会けんぽに加入する中小企業の社員は、約120円減る見込みだ。
こうした応能負担を強化する背景にあるのが、団塊世代すべてが75歳以上になる「2025年問題」だ。介護が必要な高齢者(要介護1~5)は同年、約600万人と、15年(約450万人)の1.3倍になる見通し。それに伴う介護費用は25年度に21兆円と、現在の倍に膨らむ見込みだ。
介護費用は、国と自治体による公費、40歳以上の保険料、サービス利用者の自己負担で賄われている。65歳以上の保険料は25年度、全国平均で月8000円を超える見込みで、すでに限界だ。国の財政が厳しい中、収入のある人に、より多くの負担を求める傾向は今後も続くとみられる。
<応能負担> 受けた利益の対価を、本人の支払い能力に応じて負担してもらうこと。医療、介護などの社会保障分野では、所得に応じてサービスの料金や保険料を納めることが該当する。一方、所得にかかわらず受けたサービスの内容に応じて支払うのは、「応益負担」と呼ばれる。
費用抑制の議論続く…生活援助サービス焦点に
費用抑制に向けては課題も残されている。その一つが、介護の必要性が比較的低い「要介護1、2」の高齢者を対象とした訪問介護サービスのうち、自宅を訪問して掃除や調理などを行う「生活援助サービス」だ。
利用者は1時間300円程度と安価で使えるが、「家政婦代わりに安易に使われ、かえって自立を妨げている」などの批判もある。このため、国は保険の対象から外し、地域住民らが担い手となる市町村の事業に移すことを検討。しかし、市町村の負担増を懸念する意見や、サービス縮小に慎重な与党内の声を受け、実施は見送られた。
今後は、要介護度にかかわらず、生活援助サービスの職員の資格要件を緩和し、事業者が対価として受け取る「介護報酬」を引き下げる案などを検討する見通しだ。介護福祉士など専門性の高い人材に限られている資格の緩和で、人材確保につながると期待する意見がある一方、「質が低下する」「報酬引き下げで事業者が撤退すれば、自宅で暮らせなくなる高齢者が出る」といった懸念もある。
他にも、財務省側は、要介護度の維持、改善に向けた機能訓練などがほとんど行われていないデイサービス(通所介護)は介護報酬を減らすなどの費用抑制案を示している。
来年度は3年に1度の介護報酬改定の年。社会保障審議会分科会での検討が始まり、来年2月頃までに結論が出る見通しだ。
(板垣茂良、田中ひろみ)
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