予防医学研究者・石川善樹の「続けたくなる健康法」
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テレビを見るより楽しい趣味とは…
こんにちは。
予防医学研究者の石川です。
少し昔の論文になるのですが、経済学者のアラン・クルーガー米プリンストン大学教授は、過去40年間(1965〜2005年)においてアメリカ人の時間の使い方がどのように変わったかを分析・報告しています。
なぜ、クルーガー教授がそのような研究をしたかというと、研究のタイトルにその意図が表れています。
「私たちは今を楽しんでいるのか?(Are we having more fun yet?)」
というのも、過去40年間で機械化などが進んだことにより、男女ともに仕事や家事といった労働時間が減り、「余暇」の時間は増えました。しかし、そうやって捻出された「余暇」を、アメリカ人が一体何に使っているのか知りたい、というのがクルーガー教授の興味だったのです。
余暇時間の増加=テレビ視聴時間の増加

結論から述べると、余暇を「テレビ」を見て過ごしていました。実は、日本でも状況は似ていて、たとえばNHK放送文化研究所が発表している「国民生活時間調査」によると、過去25年間(1985〜2010年)におけるテレビ視聴時間は、ネット時代にもかかわらず「長時間化」しており、今ではおよそ1日平均3〜4時間もテレビを見ているそうです。
このこと自体は、是非を問うべきものではありませんが、クルーガー教授の関心は、「それで結局、現代人は今を楽しんでいるのか?」ということです。何より予防医学研究者として、私が反省させられたのは、「過去何十年にもわたって、テレビ以外の余暇の過ごし方を提供できていない」という憂慮すべき事実です。
たとえば、予防医学はもう何十年にもわたって、「ランニング」を推奨してきました。たとえば、アイオワ州立大学のダックチャル・リー助教(身体活動疫学)らが2017年3月に発表した研究によれば、「1時間のランニングで、寿命が7時間延びる」と報告されています。
一方で、ランニングはある段階を超えて行うと、むしろ健康増進効果は得られにくくなることから、リー氏らは効果を最大に得られる、ギリギリの上限についても研究を行っています。その結果をまとめたのが下記の表です。
健康効果を得られるランニングの上限 | |
---|---|
時 間 | 4.5時間/週 |
距 離 | 30マイル(48キロ)/週 |
頻 度 | 6回/週 |
出典:Lee D, et al. Prog Cardiovasc Dis (2017) |
たとえば、「時間」をみると、1週間でトータル4.5時間のランニングが、もっとも健康効果を期待できるそうです。逆に言えば、それ以上ランニングしてしまうと、せっかくのプラス効果が損なわれていくということです。あるいは「頻度」をみると、1週間に6回までが健康という観点からは望ましいようです。
このような「ランニングの健康効果」については、予防医学は数多くの研究を行ってきたものの、「社会全体としてランニング人口を増やすにはどうしたらいいか?」といった問いは、これまでほとんど取り組めてきませんでした。
さらに言えば、「テレビを見ることよりも楽しい趣味を、予防医学は提供してきたか?」と問われると、耳が痛い限りです。一方で、だからこそ「来たるべき未来において予防医学は何に取り組むのか?」という本質に立ち返る必要があると、最近考えて過ごしています。
それではまた次回!
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