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QOD 生と死を問う 第6部

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[QOD 生と死を問う]今どきの終活(下)自分らしい葬儀を準備

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元気な時に「遺影」 あらかじめ費用概算

 

[QOD 生と死を問う]今どきの終活(下)自分らしい葬儀を準備

メモリアルアートの大野屋は、実際に使う葬儀場で説明会を開催している(横浜市で)

 人生のフィナーレを自分らしく――。葬儀の計画や遺影の準備を、生前から進める動きが広がっている。終活ブームで、葬儀の話がタブー視されなくなったことや、少子化により、子どもに頼れない人が増えたことも背景にある。

  ■気負わず笑顔

 「こっちのブラウスのほうが明るく見えるかな」。5月末、東京都中野区の写真館「素顔館」で、名古屋市から訪れた女性(65)が服を選ぶのを、夫(68)が見守っていた。悩んだ末、女性は、長男の妻からもらったという緑色のカーディガンを手に取った。

 スタッフにメイクをしてもらい、撮影スタート。館長の能津喜代房さん(68)と、孫や地元の名古屋のことなどを話しながら、撮影はなごやかに進んだ。「きれいにお化粧してもらって、ありがたいことね」。現像するお気に入りの1枚を選びながら、女性は笑顔で話した。

 撮影していたのは、女性の「遺影」だ。8年前から数年ごとに訪れて写真を更新し、今回が3回目。2L判のプリントと写真データを購入した。写真は、亡くなったら遺影として葬儀に使うよう長女に頼んでいる。

 素顔館は、遺影の専門写真館として2008年にオープンした。これまでに約4000人が訪れている。80歳前後を中心に、50歳~60歳代の客も増えているという。2L判とデータなどで1万5000円。当初は、「最後の1枚を撮る」と気負って来る客も多かったが、最近では、夫婦や親子、友人同士で気軽に訪れ、楽しげに写真を選び合う人も多いという。

 能津さんは「遺影は、残された家族が毎日見るもので、最高のプレゼントになる。心も体も元気なときに撮ってほしい」と話す。

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  ■好きな花と音楽で

 遺影に限らず、自らの葬儀を生前から準備する動きが広がっている。

 葬儀社では生前相談や予約に力を入れている。葬儀社約1300社が加盟する全日本葬祭業協同組合連合会は12年、生前相談の専門員の認定制度を始めた。すでに1000人以上が資格を取り、全国で葬儀の生前相談にあたっている。

 「メモリアルアートの大野屋」(東京都)では、無料で専門のアドバイザーと相談して葬儀の内容を決め、見積もりを作成するサービスを行う。祭壇の花の色や種類、会葬者への料理の品を決めたり、通夜や告別式でのBGMを指定したりもできる。最近では、一人暮らしの人が利用するケースも増えているという。

 横浜市の70歳代の夫婦は、今年3月、事前に大野屋で予約していたプランをもとに、夫の母の葬儀を行った。あたたかい雰囲気が魅力のリビングルーム風の会場。若い頃から最近までの写真を並べ、数十年間大切にしていたひな人形も飾った。そして、母の好きだったオペラ曲を聞きながら、親族だけで思い出を語り合ったという。

 妻は「事前に決めていたからこそ、細かいところに気を配れたし、落ち着いて見送れた」と満足げだ。夫婦2人も、自身の葬儀の内容を予約したという。

 同社のアドバイザー、三井桂子さんは「見積もりで必要な費用の概算があらかじめ分かることも、安心感につながるようだ」と説明する。

プラン決めても定期的に見直し

 

 葬儀を生前から準備する場合、注意すべき点もある。

 一つは、せっかく計画しても、家族に伝えていないと、死亡しても希望の葬儀社に連絡してもらえなかったり、葬儀の内容でトラブルになったりする可能性があることだ。葬儀社や葬儀の内容を決める際には、家族に伝え、同意を得ておくことが大切だ。

 また、高齢になるほど参列できる会葬者が少なくなるなど、状況は変化する。そのため、一度プランを決めても定期的な見直しが必要になる。葬儀や墓の問題に詳しい第一生命経済研究所の小谷みどり・主席研究員は「後で見直しをしやすいよう、料金の支払いを伴う契約は避けるのが無難」と話す。

 まず用意しておきたいものとして、小谷さんは、遺影に使う写真と 訃報ふほう を伝えてほしい人のリストを挙げ、「会葬者のめどが立てば、どんな葬儀にするかや費用も考えやすい。交友関係は本人にしかわからないので、家族や葬儀を託す人に、きちんと伝えておくことが大切だ」とアドバイスする。

 

 ◎QOD=Quality of Death(Dying) 「死の質」の意味。

 (小沼聖実)

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