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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

患者が積極的でなければ…医師が本気にならず、治療も停滞する恐れ

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患者が積極的でなければ…医師が本気にならず、治療も停滞する恐れ

 角膜の中央付近が次第に 円錐(えんすい) 状に突出してくる円錐角膜という病気が進行し、その突出のためにコンタクトレンズもすぐに外れてしまうので、もはや視力の矯正方法がなくなった30歳代の女性が、地方から来院しました。

 知り合いの紹介で来られ、あらかじめ若干の情報は得ていたので、その方の問題点はあらかたわかっていました。

 よく聞けば、現在かかっている医療施設は、有名な角膜の専門家が診療しているところであり、なぜ特殊なコンタクトレンズを用いるなり、角膜移植手術に進むなり、もっと積極的な方針を立てないのか、専門外ながら不思議に感じておりました。

 ところが、患者さんに対面してみると、診察室に入るときに軽く会釈をしたきりで、自分の口からはあまり言葉を発しません。

 謙虚というべきか、大人しいというべきか、そういう患者さんでした。

 こちらの問いかけには明瞭に答えます。ただ、「はい」とか「いいえ」とか、簡単な応答で、何が知りたくて来られたのか伝わってきません。つまり、こちらを本気にさせないのです。

 見えないことへの不満、快適でない状態を、これでもかというほど () め込んで訴える方は外来では目立ちます。しかし、何かを訴えたり主張したりしない患者さんでは、病気や症状が多少あっても、その人の生活には大して影響していないものと判断して、医師はなかなか積極的になりません。

 特に、患者中心に考える現代の医療では、医師は患者が頼みもしていないことに手出しはしないものです。

 積極的な治療というものは、どんなに医学が進歩していても、必ず 侵襲(しんしゅう) 的治療になります。

 「侵襲」とはあまり聞き慣れない言葉かと思いますが、英語のinvasion、つまり生体に対し「侵入的」という意味で、これを無理に翻訳したものでしょう。手術治療にしろ、薬物治療にしろ、積極的な治療は何らかの副作用もありうるし、効果の程度にばらつきが予想されます。ですから、患者さんに積極的な姿勢がなければ、それを行う優先順位は低くなります。

 医師の方も、限られた時間の中で多くの患者さんに対応しなければならない環境ですから、どうしても優先順位を考えての診療になります。

 医師が、「この人なら侵襲的治療を提案できるな」と思う瞬間とは、やはり人間同士ですから患者さんと馬が合った時点です。さらに言えば、自分の持つ問題点を要領よくまとめて伝えられる能力、病気や治療を理解し、治療におけるリスクをも受け入れる「患者力」があるなと思えるような場合です。

 医者を本気にさせるには、患者さんが自分の受ける医療に対して積極的に理解しようとする覚悟、そして「医師に丸投げでなく自分も治療に参加するのだ」という自己責任を伴った姿勢を見せることが非常に大切です。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。北里大学医学部客員教授、日本神経眼科学会理事長などを兼務し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」(春秋社)、「健康は眼に聞け」(同)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「高津川 日本初の女性眼科医 右田アサ」(青志社)、「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・執筆活動のほか、NPO法人などのボランティア活動に取り組む。

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