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QOD 生と死を問う 第6部

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[QOD 生と死を問う]今どきの終活(中)理想の永眠の場探す

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樹木葬、散骨…現場ツアーも

 

[QOD 生と死を問う]今どきの終活(中)理想の永眠の場探す

担当者の説明を聞きながら、3月にオープンしたばかりの樹木葬エリアを見学する参加者たち(東京都新宿区で)

 「自分はどこに眠るべきか」――。代々受け継ぐお墓ではなく、個人や夫婦だけの永眠の場を探す人が増えている。少子化や非婚化で継ぐ子どもがいないケースや、「子どもに管理する負担をかけたくない」と考えるケースが多くなったからだ。そうした中、樹木葬や海洋散骨など新しい供養の形が注目され、その現場を見て回る旅行会社などの「終活ツアー」も実施されている。ツアーに参加する人々に、思いを尋ねた。

  ■継がなくていい墓

 東京都新宿区の瑞光寺。その敷地の一角にある「牛込庭苑」は今年3月にできたばかりの樹木葬の墓地だ。樹木葬は、従来のように墓石を建てず、遺骨を直接土の中に埋めて自然に返したり、樹木の根元のスペースに骨つぼを納めたりする。いずれにしても原則1代限りで、墓を継ぐ人は必要ないのが特徴だ。カエデやツツジなど約20種の木々が植えられた約40平方メートルの洋風庭園に、1人用48区画と、2人から4人まで納骨できる45区画が並ぶ。

 5月中旬、この墓地を旅行会社の「終活ツアー」が訪れた。参加したのは40~70歳代の29人。特徴を説明する担当者へ向けられた質問は、「いつまで供養してもらえるのか」「死後、どれぐらい費用がかかるか」に集中した。

 「原則として、最後に入ったお骨が13回忌を迎えた際に、敷地内の供養塔に移します。その際の費用は無料です」と担当者。供養塔では、他の人と一緒に合葬される。

 神奈川県鎌倉市から参加した女性(46)は「以前、3か所あった先祖代々の墓を整理しようとしたら数百万円かかると言われた。樹木葬なら子どもに迷惑をかけることもなさそう」と納得した様子だ。埼玉県越谷市の中村恵美子さん(67)は「2人の息子の手を煩わせたくない。海洋散骨も検討したい」。

 このほか、「先祖代々の墓は、子どもがいる弟家族に継いでもらった。自分の行き場がない」(71歳・男性)など、参加者は口々に境遇を語った。

 この墓地など、都内や千葉県内などの樹木葬を仲介する「アンカレッジ」(東京都)の伊藤照男代表(41)は「死後にかかる費用まで、自分で見通しをつけたいと考える傾向が強くなった。自分が遠方の墓の管理や親戚づきあいに苦労したため、同じ思いを子どもにさせたくない人も多いようだ」と指摘する。樹木葬の場合、1人分で50万~80万円程度が相場という。墓石のある墓を建てると数百万円かかるのを考えれば、費用も安く抑えられる。

 ツアーは、シニアの利用が多い旅行会社「クラブツーリズム」が2014年から定期的に催しており、樹木葬や、手元に遺骨が残らない海洋散骨の現場を体験する内容が人気を集める。この日は都内計3か所の樹木葬を見学したほか、移動中のバスの中では、死後の手続きや墓じまいの手順なども解説した。

  ■周囲と話し合って

 こうしたツアーは、他の旅行会社でも不定期に実施されているほか、葬儀社も募集している。海洋散骨を専門に手がける「メモリアルスタイル」(東京都)は、花びらをまいて散骨を模擬体験するクルーズを2か月に1度実施。毎回10組ほどが参加している。

 終活カウンセラーの佐藤陽さん(43)によると、数年前までは60~70歳代が中心だった終活が、最近は、親や自分の将来を心配する20~40歳代にも広がっているという。ただし、注意すべき点もある。佐藤さんは、「自分だけ樹木葬にして先祖の墓が放置されていたり、相談せずに散骨をして『墓参りする場所がない』と家族間のトラブルになったりするケースもある。周囲とよく話し合って終活をすることが大切」と話している。

「墓がない」は2割弱

 

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 日本消費者協会が2016年に行った調査では、現在「墓がない」と答えた人は全体の17.2%だった。

 墓がない人のうち、将来「新たに墓を確保する」とした人は15.8%にとどまった。一方で、半数近い44%が「樹木葬」や「散骨」を望んでいた。

 また、「その他」を選んだ人が30%おり、その中には、個別の墓ではなく永代供養墓などでの合葬を希望する人が目立った。「骨つぼも墓もいらない」「火葬場で廃棄して構わない」などと供養そのものを不要と考える人もいた。

 

 ◎QOD=Quality of Death(Dying) 「死の質」の意味。

 (大広悠子)

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