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支援拒む高齢者、どう対応…セルフネグレクト、「ごみ屋敷」の場合も
介護や医療など必要な支援を拒否したり、ごみをためこんだりする「セルフネグレクト」の高齢者への支援について、現場の模索が続いている。地域包括支援センターと医師が連携する自治体などでは一定の成果を上げているが、早期の発見や介入が難しく、地域によって対応にばらつきがあるのも実情だ。
■医師が積極的に関与
東京都北区の地域包括支援センター「みずべの苑」で5月上旬、医師の河村雅明さん(62)と社会福祉士らが話し合っていた。「部屋がごみだらけになっていて心配」。こうした支援が難しい高齢者に関する情報を共有して、支援の方法を検討する。会議は地域ごとに年3回ほど開かれる。
河村さんは、同区が2012年度から独自に導入した非常勤の「サポート医」。認知症に関する研修を受けた6人が現在務め、介護や医療を受けていない人を訪問して、認知症の有無を確認したり、介護保険の申請に必要な意見書を作成したりしている。
これまでに様々なケースに対応してきた。団地で独り暮らしをしていた70歳代の男性は、認知症がみられ、体調を崩して動けなくなってからも治療や食事を拒否していた。河村さんが訪問すると、定期的な訪問診療に同意。間もなく亡くなったが、死亡診断書を書くことができたという。
一昨年に訪問した70歳代の女性は、独り暮らしの自宅にごみがたまり、不衛生な生活を送っていた。住民の苦情をきっかけに介入し、精神科への入院につなげた。
同区の小宮山恵美・介護医療連携推進担当課長は「医師が訪問することで受け入れてくれる時もある。センター職員も相談しやすく、心強い」と河村さんらサポート医の役割を評価する。
■虐待に準じた取り組み
高齢者虐待防止法は、セルフネグレクトを虐待に含めていないが、本人の健康や安全が侵害されるとして、虐待に準じた取り組みを進める自治体も少なくない。
東京都は、虐待の対応マニュアルにセルフネグレクトの支援の必要性について明記。高齢者見守りのガイドブックでは、本人が対応を拒否する事例について、ドアに手紙を挟んで安否を確認したり、信頼されている住民を通じた声かけを続けたりする方法を紹介する。
ごみ屋敷になってから発覚するケースも多く、ごみの片づけが介入や支援の入り口になっている。東京都足立区は、ごみの強制撤去を含む条例を作り、苦情や相談があった場合には、家族の状況などを調べられるようになった。強制撤去まで至ったケースはないが、本人の生活支援につなげるなど119件を解決した。
東邦大の岸恵美子教授(公衆衛生看護学)は「セルフネグレクトは高齢者だけでなく、誰でもなるおそれがある。本人の意思で支援を拒否しているように見えても、親しい人が亡くなるなどのつらい経験や、家族からの虐待など人間関係の問題によって、生きる意欲を失っている場合もある。周囲が理解を深め、ねばり強く関わっていくことが必要」と話している。
介入どこまで、現場苦慮
本人が支援や関わりを拒否する時、支援者はどこまで介入すべきか、対応に苦慮しているのが現状だ。
公益社団法人「あい権利擁護支援ネット」が地域包括支援センターに実施した調査(2014年度)では、対応が難しいセルフネグレクトの高齢者の状態について、「必要な受診・治療を拒否」「必要な介護・福祉サービスを拒否」との回答が5割近くに上った。
対応する上で困難を感じていることは、支援拒否(60.5%)のほか、家族や親族からの協力が得られない(59.5%)、本人に会えず実態が把握できない(41.2%)、見守り以外に有効な支援方法がわからない(31.1%)といった悩みがあった。訪問してくれる医療機関がないと回答したセンターもあった。
<セルフネグレクト> 身の回りのことができなくなり、支援を拒否したり、ごみをためて不衛生なまま暮らしたりして心身の健康が脅かされる状態。認知症や精神疾患などによる判断力の低下や親しい人との死別、生活苦などが背景にある。内閣府の調査(2011年)は、こうした高齢者は全国で約9000~1万2000人と推計するが、実態把握は進まず、孤立死にいたる場合もある。
(粂文野)
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