QOD 生と死を問う 第6部
連載
[QOD 生と死を問う]今どきの終活(上)生前に家財を整理
「元気なうちに」「子に迷惑かけず」
「自分の人生の終え方は、自分で決めたい」。そう願う人が増えているようだ。「死の質」を考える連載の第6部では、近頃、中高年層の関心を集めている「終活」の最前線を探る。1回目は、死後、子どもなどに面倒をかけないよう、自分で持ち物を整理、処分するケースを取材した。
■「こんなに物が」
「こんなに物があったんだ」。業者が運び出した家具や家財は2トントラック13台分。依頼者の女性(57)は、その多さに驚いた。
女性が整理を頼んだのは、埼玉県蓮田市にある実家だ。3月に、男女の作業員4人が4日間かけて作業し、料金はおよそ55万円。空っぽになっていく室内を見回した女性は、長年の胸のつかえが下りたように、すっきりした表情になった。
築40年の2階建てで4LDK。1970年代に中間所得層向けに開発された郊外の住宅地にある。高校生の時から両親と3人で暮らし、結婚、出産の後も3世代で同居した思い出のつまった家。だが、近くに家を購入して独立した後、1人で残った母親が脳 梗塞 で急逝し、実家は空き家となった。
それから約15年。管理のため定期的に通っていたが、整理するにも、どこから手をつければ良いのかわからない。仕事や子育てに追われ、実家のことは後回しになっていた。
しかし、女性自身も還暦に近づいてきた。昨年は体調を崩して入院し、「いつまでも元気ではいられない」と痛感した。実家や家財をそのままにしておけば、いつかは自分自身の遺品になってしまう。「子どもに押しつけることになる」と気付いた。
■思い出の品発見
依頼を受けた同市の遺品整理業者「ワンステップサービス」は、まず家電製品や大型家具などを運び出し、リサイクル業者や再生処理工場へ送った。小さな物は床の上に並べ、プラスチックや衣類、木、紙、鉄くずなどを、細かく仕分けていく。衣類のポケットや本のページの間、封筒の中身まで、一つひとつ確認していった。
同社の藤川雅幸社長によると、「何でもないところに紙幣が挟まっていたり、指輪などが入っていたりする」という。
古い写真や手紙も見つかり、それらは思い出の品として残した。女性は、「『まだ元気だから大丈夫』と先延ばしにすると、物が増えていくばかり。家族がお互い納得した上で、早めに片づけ始めた方がいい」と話す。
藤川社長によると、同社への依頼は年間に400件ほど。近年は、高齢者本人や家族が、生前に家財などの整理を希望するケースが目立つという。
■業者選びは慎重に
業界団体の「遺品整理士認定協会」(北海道)によると、自分が元気なうちに持ち物の整理を依頼する人は急増している。「子どもに迷惑をかけたくない」「施設に入るので家を整理したい」などが、主な理由だという。
物の多さにもよるが、料金の一般的な相場は、1DKマンションで6万~10万円、戸建て4LDKで40万~60万円程度。同協会の小根英人副理事長は「相場より著しく高かったり、安かったりする場合は要注意。健全な業者ではないかもしれない」と指摘する。
同協会によると、需要の高まりから参入企業は増え、現在は全国に1万社ほどあると予測される。一方、各地の消費生活センターには「高額な費用やキャンセル料を請求された」「必要なものまで勝手に処分された」といった苦情も寄せられている。依頼する場合は、慎重に業者を選ぶことも必要だ。国民生活センター(東京都)は、「見積もりや費用明細を出してもらうことや、作業に立ち会うことが大事」と助言する。
亡くなった後に家財を処分すると、葬儀費用も含めて、残された親族の経済的負担は大きくなる。元気なうちから自分で生活に必要のないものを仕分け、リサイクルや寄付に回して整理すれば、死後にかかる費用の節約にもなる。
小根副理事長は、「物の整理は、心の整理でもある。家族で相談しながら、2回、3回と、少しずつ進めていくのが理想。自分が暮らす環境を快適にする意味でも、生前に取り組んでおくといい」と、アドバイスしている。
◎QOD=Quality of Death(Dying) 「死の質」の意味。
(手嶋由梨)
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