元関脇 貴闘力忠茂さん
一病息災
[元関脇 貴闘力忠茂さん]ギャンブル依存症(2)知らない馬で大当たり
念願の力士になり、1983年に初土俵を踏んだ。兄弟子より早く起き、稽古に明け暮れる毎日。ちゃんこ作りや雑用にも追われ、月日が瞬く間に過ぎていった。
「兄弟子の心をよみ、先回りして行動しないと怒られる。大変だったけど、あの時に培った感覚は、今経営している焼き肉店の接客に役立っている。相手の考えがよめるから、マージャンもずいぶん強くなったよ」
兄弟子らとマージャンを楽しむことはあったが、番付が低い頃はギャンブルとは無縁だった。反面教師の父親の存在に加え、金も時間もなかったのだ。後に約5億円をつぎ込むことになる病的なギャンブル癖は、窮地に追い込まれた末のビギナーズラックで始まった。
それは十両昇進が決まり、後援会組織を作った時のこと。化粧まわしや着物などで400万円が必要になり、知人に頭を下げて工面した。ところが、金を預けた人物に持ち逃げされてしまった。
手元にあるのは10万円。「もう、どうにもならない」。絶望にさいなまれ、ヤケになった頭に浮かんだのが、忌み嫌うギャンブルだった。競馬場に行き、知らない馬に全額を賭けた。すると大当たり。競馬場を出た時には、懐に400万円が詰まっていた。
競馬、賭けマージャン、パチンコ、カジノ……。ギャンブルを食い止めていた心の防波堤は、あっけなく崩れた。
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元関脇
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