コウノドリ先生 いのちの話
からだコラム
[コウノドリ先生 いのちの話]母性も一緒に運んできて
英語でお産のことを「delivery(デリバリー)」といいます。「配達」という意味もあり、「コウノトリが赤ちゃんを宅配してくれる」という説話から来ているともいわれています。
以前、こんなことがありました。日本を旅行中の外国人がホテルで赤ちゃんを産みました。ところが、その人は「子どもはいらない」と言い、勝手に出国してしまいます。国際的な「産み捨て」が起きたのです。
この赤ちゃんの場合、出生届を日本で出すか、母親の国に出すかで、国籍が変わってきます。実際には、母親の出身国の領事館に掛け合って子どものパスポートを発行してもらい、何とか親族を捜し当て、連れて帰ってもらいました。
こんな話もあります。長年、不妊治療がうまくいかず、50代になって外国で卵子提供を受け、出産した女性がいました。最初は懸命に我が子に接していたのですが、ある日を境に授乳室にぷっつりと来なくなりました。話を聞いてみると、20代の若い母親から「ここはおばあちゃんは入室禁止のはずだけど」と強烈な嫌みを言われ、行けなくなった、とのことでした。
国内では、体外受精による妊娠は年間4万人といわれ、生まれた赤ちゃんの25人に1人を占めます。その陰には多くの授からなかった人、授かることを断念した人がいます。一方で、望まない妊娠などで生まれた命を「なかったこと」にする事例も後を絶ちません。
望んでも授かれない、望まないのに授かる、授かっても幸せになれない。赤ちゃんと一緒に、必ず母性も添えて宅配してくれる「コウノトリ運送」のような会社があればどんなにいいか。「コウノトリの誤配」事例に接するたび、やるせない思いに駆られ、そんなことを考えてしまいます。
(りんくう総合医療センター産婦人科部長 荻田和秀)
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