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混合介護、ルール緩和を…家族向けも同時提供、ヘルパー指名しやすく
規制改革推進会議が意見書
政府の規制改革推進会議は4月、混合介護の拡充についての意見書をまとめ、厚生労働省に検討を求めた。混合介護は、介護保険が使える介護や支援と、保険対象外のサービスを組み合わせて利用することで、現在でも一定の範囲で認められている。同会議は、さらに規制を緩めてサービスの使い勝手を良くしたい考えだ。混合介護の基本的なルール、拡充にあたっての課題をまとめた。
高齢者を支えるサービスには、介護保険が適用されて自己負担が費用の1~2割ですむ部分と、全額自費になる保険外の部分がある。保険外のサービスには、同居家族の家事援助も含まれる。ここにきて、混合介護の拡充が求められている背景には、在宅介護へのニーズの高まりがある。
多くの高齢者が、介護が必要になっても自宅で暮らしたいと希望しており、それを実現するためには、保険外を含む様々なサービスを、今以上に柔軟に組み合わせて利用する必要があるからだ。
また、混合介護が広がれば、ヘルパーら介護職員の給与改善にもつながるとみられ、主に介護事業者から拡充を求める声が上がっている。
■職員滞在時間を短縮
混合介護を拡充すれば、何が変わるのか。在宅介護の要である訪問介護を例に説明しよう。
訪問介護は、ヘルパーが自宅に来て入浴やトイレの介助や、掃除、洗濯、食事作りなど身の回りの世話をするサービスだ。介護保険では、要介護者本人を対象としたものに限られている。
現在のルールでは、例えば1時間の訪問介護を行う場合、その時間はすべて要介護者本人の介護や身の回りの世話に充てられ、同じ1時間の中で同居家族の部屋の掃除や食事作り、洗濯などはできない。
1時間の訪問介護の直後に、これらのサービスを保険外で提供するのは可能だが、これでは非効率だ。規制改革推進会議の意見書では、「同時一体的な提供を可能とすること」と明記されている。本人と家族のための調理や洗濯などを同時にまとめてできれば、ヘルパーの滞在時間を短くできる。
■利用者の料金負担減
また、訪問介護の利用者の中には、「気が合う」「介護技術が高い」などの理由で、毎回必ず同じヘルパーに来てほしいというニーズもある。特定のヘルパーを頼む指名料を保険外で取ることは今も可能で、一部の事業者が導入している。ただし、指名したヘルパーによる訪問介護は保険外となる。
例えば、ヘルパーを指名せずに1時間の訪問介護を受ける場合、介護保険が使えるので、自己負担は約400~800円ですむ。だが、指名すると10割負担になり、指名料が500円なら、計約4500円を支払わなければならない。
意見書では、このルールを緩めることも盛り込まれた。保険外で指名料を取った場合でも、訪問介護自体には保険を適用し、自己負担が約400~800円ですむようにする。利用者の料金負担が減るので、事業者は指名料を取りやすくなり、ヘルパーの賃金や利用者の満足度向上につながると期待される。
加えて、意見書では「時間指定料」の徴収も提案された。例えば、訪問介護のニーズが集中する繁忙な時間帯について、保険外で割増料を取るといったケースだ。
■デイサービスにも
介護保険の対象となる「デイサービス」でも、混合介護の拡充を求める声がある。
デイサービスは、高齢者が施設に通って介護などを受けるサービス。現在のルールでも、デイサービスの合間に、衛生上必要な髪の手入れについて、理容師や美容師の訪問サービスを保険外で受けることができる。
意見書は、マッサージや買い物の手伝いなどにも範囲を広げ、「原則自由とするべきだ」とした。さらに、施設への送迎中や送迎の前後に、保険外で買い物や通院の手伝い、夕食の購入などを行えるようにすることも求めている。
また、混合介護の拡充を巡っては、東京都と東京都豊島区が、国家戦略特区での実施を政府に提案している。認められれば、2018年度から同区内でモデル事業を始める方針。今年度、制度設計について有識者らの会議で検討する予定だ。
ただし、政府・与党内には混合介護の拡充に慎重論も強く、どこまで実現するかは不透明だ。
「自立支援」とのバランス課題
混合介護の拡充については課題も多い。訪問介護などを行っている民間事業者「のそら」(東京都練馬区)の森田健一代表(33)は、「認知症高齢者が、保険内と保険外のサービス内容や料金の違いを理解しないまま、契約を結ばされないか心配だ。指名については、何でもやってくれるヘルパーが選ばれる可能性があり、介護保険の理念である『自立支援』に逆行しかねない」と懸念する。
規制改革推進会議の意見書でも、〈1〉ケアマネジャーが、自立支援・重度化防止の観点から保険外サービスをケアプランに位置付ける〈2〉事業者は、契約時の説明事項や契約解除についての留意事項を利用者に明示する〈3〉苦情処理体制について一定の条件を満たした事業者にのみ、柔軟な混合介護の提供を認める――などの対策が盛り込まれた。その上で、厚労省には、混合介護の拡充に関して事業者や自治体が守るべきガイドライン(指針)作りを求めている。
これに対し厚労省は、高齢者の保護などに課題が多いことから、混合介護の拡充には慎重な姿勢を見せている。
(安田武晴)
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