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松永正訓の小児医療~常識のウソ

コラム

夏の発熱は熱中症のサイン?

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夏の発熱は熱中症のサイン?

 地球温暖化に関しては懐疑論もあるようですが、全世界の平均気温が上昇していることは統計などできちんと示されています。しかし、そんな統計を見るまでもなく、都心部では50年前と比べて体感温度は明らかに上がっています。

 私は東京都足立区で生まれ育ちました。当時の足立区は今と大違いで、町の中には畑や田んぼ、森や川がありました。空き地とか肥だめなどもあって、東京都といっても地方の町と同じような風景だったと思われます。

 私の自宅の前の道路は土でした。アスファルトで固められたのは、私が小学生になった頃です。家には窓が多かった。当時の家庭の台所には勝手口があることが普通で、玄関や勝手口を開けることで家の中に空気が流れていました(その代わり、夏は家の中に () がウヨウヨ飛んでいた)。

 ですので、小学校高学年の時に、クーラー(エアコンではない)なるものが我が家に設置されてもあまり効果を実感できず、ほとんど感激することもありませんでした。

 ですが、今の時代はどうでしょうか? 住宅の気密性は高まり、家の中を空気が流れるなんていうことはありません。道路という道路はアスファルトで固められ、私たちはコンクリートに囲まれて生きています。エアコンは必須です。昔の国電は車両の天井に扇風機が付いていましたが、現在のJRは冷房車です。

 こうして夏の暑さは、年を追うごとに激しさを増しているように感じられます。メディアの情報として夏は必ず熱中症が話題になります。テレビ・新聞を見ていると、小児は熱中症に弱いと伝えられています。また、救急車で搬送される患者も連日のように報道されます。では、子どもが夏に発熱したら、それは熱中症のサインなのでしょうか?

「風邪の発熱」と「熱中症の高熱」

 そもそも熱中症とは、どういう病態を指すのでしょうか? 私たちは、風邪を引くと熱を出します。連載の第4回目で書きましたが、風邪の時は自分で体温を上昇させて免疫力を高めます。ウイルスなどの感染が直接的に高熱を招いているのではなく、自分のパワーで情報伝達物質(サイトカイン)を使って脳内に炎症性物質(プロスタグランジン)を作らせる。つまり、自分自身で体温の設定温度を(たとえば)38.5度に上げてしまうのです。従って、風邪で発熱する時は汗をかきません。むしろ、寒気を感じます。汗をかくのは、発熱が終了し、病原体との闘いに勝利した時です。

 一方、熱中症では、外部の環境によって体温が高くなります。自分のパワーではなく、外部からの熱のパワーです。私たちの体の設定温度は(たとえば)36.5度のままですが、外部環境が高熱であるために猛烈な暑さを感じるのです。気温、湿度、日射の強弱、風の強弱、衣服の状態――そういった要因が人間にとって暑さにつながります。風邪の時とは異なり、大汗をかきます。汗をかくかどうかは、重要なポイントですので覚えておいてください。

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松永 正訓(まつなが・ただし)

 1961年、東京都生まれ。1987年、千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰(1991年)など受賞歴多数。2006年より、「松永クリニック小児科・小児外科」院長。

 『運命の子 トリソミー  短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて2013年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『子どもの危険な病気のサインがわかる本』(講談社)など。

 ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

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2件 のコメント

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見えざる病変からのメカニズムと戦略を知る

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

小児神経学会に行きました。 進学校や私立医学部も進路強制などのせいか、自閉症傾向に近い症状の子もいたので、演題を見ながら記憶を振り返りします。 ...

小児神経学会に行きました。
進学校や私立医学部も進路強制などのせいか、自閉症傾向に近い症状の子もいたので、演題を見ながら記憶を振り返りします。

親自身もしばしば同じ問題を抱えており、スポンサーでもあり、そういう子供をどういう風に早期から鑑別して社会的に支えていくかという課題は、教師だけでなく、小児科、神経内科、精神科、総合診療科、開業医および各科医師を支える放射線科医や病理医の隠れた課題かもしれません。

急性期外傷は別として、自閉症傾向の被虐待児の医療画像でも、虐待直後は健常児と明らかな違いは認めませんが、実は微細な変化が進むそうです。
おそらく、今の通常のMRIにも映らないような微細な構造変化や病変が経時的に様々な作用を経て、見えやすい変化として描出されるのではないかと思います。

画像機器の物理的解像度や時系列の解像度その他の制約条件にはまだまだ改善の余地があって、医師でさえ見ているデータはある時間や空間を機械の限界で切り取った事実であり、そのデータで異常がなくても、現代の機械や解析者の限界を超えた異常の可能性はあります。

同じく、急性脳炎のセッションで、症状の多相性と現段階でのMRIの限界を学びましたが、一方で、局所や全身の症状と病変と画像のズレを推理して補えば、死亡者や後遺症患者の減少に繋がると思いました。

熱中症や類似症状でも言えることですが、たとえ、新しい機械を使えない地域でも、新たな機械で得られた知見はより良い医療システム構築に有用です。
いずれ、トリアージや重症の振り分けも新しい知見の普及と共に変わると思います。

環境に人間が適応するべきか、文明の利器や叡智で住みやすい環境を作るべきか、折合いが難しい所ですが、いずれにしても、大雑把なメカニズムを知って、必要に応じて塗り替わった常識に沿って対応も変えられるべきだと思います。

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見えにくいメカニズムの存在の理解の重要性

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

本文を理解するのに、足りないのは深部体温の説明とイラストではないかと思います。 (次回の記載を期待します。) 先日の麻酔科学会で深部体温の復習を...

本文を理解するのに、足りないのは深部体温の説明とイラストではないかと思います。
(次回の記載を期待します。)

先日の麻酔科学会で深部体温の復習をしながら思いましたが、医師とコメディカルや患者の意見がしばしば対立するのは、前提条件としての、とりわけ見えない部分の、基礎知識が大きく違う場合が多いからです。
細かいところは専門職種や医療機関に任せればいいですが、大雑把な全体像の理解と守備範囲の理解は大事です。
熱中症疑いの患者をとりあえず日陰で休ませて、水やイオン飲料を摂らせて、回復しなければ、医療機関に行く必要が生じます。

見えやすいもの、理解しやすいものを中心に社会の論理が回るのは世の常ですが、「見えにくい、分かりにくい論理があって、自分の意見と専門家の意見が異なる」ということが理解できれば、不理解による診断治療の不利益は回避しやすいと思います。
熱中症だけでなく、怪我や病気もそうです。

「威圧的で事務的な医師の言い方」という「私の医見」がちょうど出ています。
患者さんが症状の辛さのために頭や気持ちの余裕がなくなってそう感じたのでしょうが、一方で、患者の健康や社会的生活のベストを意識したうえでの説明や妥協でなければ、患者の不利益になります。

ところで、十代後半の熱中症が多いのは、やはり、スポーツに集団行動の論理や進学や就職などの利害が絡むからだと思います。
怪我も含めて、重症化しなければ、過酷な環境への適応や我慢は成長していくうえでの経験でもありますが、今後、ベースになるコンセンサスができてきてほしいとは思います。
多くの怪我も熱中症も初期対応は安静とクーリングですが、その前後に何があるかを考えると意味が変わります。

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