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小泉記者のボストン便り

コラム

米国で深刻な処方鎮痛剤の乱用問題

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ボストンマラソン開催

米国で深刻な処方鎮痛剤の乱用問題

快晴の中たくさんのランナーが参加したボストンマラソン

 4月17日、毎年恒例のボストンマラソンが行われました。この日は初夏を思わせる快晴に恵まれ、世界各地から集まった約3万人のランナーたちが街中を気持ちよさそうに走っていました。ニューヨークから参加したジョシュ・ドリルさん(32)は、2013年の爆弾テロ事件の時もレースに参加していたそうです。しかし、ドリルさんは事件後もレースに参加し続けています。「事件以来、安全対策も強化されたし、何よりテロを恐れるのではなく、みんなで一つになることが大切だと思っている」と話していました。

死者が年間2万人超に オピオイド系鎮痛剤の乱用で

 今回は、アメリカで深刻な社会問題になっているオピオイドの乱用についてお伝えします。オピオイドは、強い鎮痛作用のある医療用麻薬で、医師から処方を受けたこの鎮痛剤の過剰摂取で、2015年には2万2598人が死亡。依存症患者も200万人いるとみられています。日本の大手自動車メーカーの役員を務める米国人女性が、オピオイド鎮痛剤を密輸して逮捕された事件があったことを覚えている人も多いでしょう。ボストンがあるマサチューセッツ州でも問題は深刻で、市内の病院には鎮痛剤などの薬物依存症の患者のための治療センターが今年3月に新設されました。

けががきっかけで依存症に つらい禁断症状

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「誰でも薬物依存症になる可能性がある」と話すダガンさん

 同州で薬物やアルコール依存症患者の支援をする団体「 ウィキド・ソバ―(Wicked Sober) 」の代表を務めるマイケル・ダガンさん(31)には、オピオイド依存に苦しんだ過去があります。薬を飲むようになったのは、17歳の高校生だった2004年1月。ラクロスの試合中に手首のけがをしたことがきっかけでした。医師から処方された鎮痛剤「オキシコドン」を服用するとひどい痛みがすぐに消え、とても快適だったと言います。手首の痛みは1週間ほどでなくなりましたが、医師からの処方は続き、薬を飲み続けていたそうです。

  世界保健機関(WHO) によると、オピオイドはケシの抽出成分やその合成化合物などでできており、強力な鎮痛効果や陶酔作用があります。アメリカでは、オキシコドン、モルヒネ、フェンタニルなどが、医療用麻薬として処方されています。がんなどの痛みがある人が、医師の指示に従って飲んでいれば問題はありませんが、使用法を誤れば、身体的にも精神的にも依存する危険があります。大量に摂取した場合、呼吸が止まり、死に至ることもあります。

 ダガンさんが自身の異常に気づいたのは、夏休みに友人と一緒に旅行をしていた時でした。夜になると体調が急変し、汗が止まらなくなりました。「例えようのない不快感があり、本当につらかった」そうです。症状は一晩中続き、翌日も体調は変わりませんでした。家に帰って鎮痛剤を飲むと、やっと回復しました。この時初めて、心身とも薬に頼りきっていたことに気づいたといいます。

 実はダガンさんの家庭では、父や叔母などがアルコールやヘロインなどへの依存症を抱えており、自身も中学生の時からアルコールやマリファナを試していたそうです。しかし、まさか自分が薬物に依存するまでになるとは思っておらず、「事実を受け入れられなかった」と話します。

 「高揚感を得たくて飲んでいたのではない。体調を保って、普通の状態で過ごしたいから、より多くの薬を飲み続けるようになり、悪循環に陥ってしまった」

 それまでスポーツや学業に打ち込んでいたダガンさんは、次第にどのように薬を入手するか、どうやって禁断症状を逃れるかということばかり考えるようになりました。授業や部活も休みがちになり、成績も下がり続けました。

 「助けを求めたくても、依存症になってしまった恥ずかしさや後ろめたさがあり、家族や友人に相談出来なかった。孤独だった」

 「薬物問題を抱える人の多い家系だったから、自分も依存症になるリスクはかなり高かった。そうしたことを医師は確かめてから処方すべきだったろうし、痛みがなくなってから薬を処方し続ける必要はなかった」と、ダガンさんは振り返りました。

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koizumi

小泉 朋子(こいずみ・ともこ)
2003年読売新聞東京本社入社。金沢支局、編成部を経て、2009年から社会部。10年から厚労省担当となり、生活保護受給者の増加の背景を探る「連載・生活保護」や認知症の人を取り巻く状況を取り上げた「認知症」などの連載を担当。13年から司法クラブで東京地・高裁、最高裁を取材し、「認知症と賠償 最高裁判決へ」「隔離の後に ハンセン病の20年」の連載など担当。2016年7月からハーバード大学公衆衛生大学院に研究員として留学中。

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3件 のコメント

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我慢と鎮痛剤の是非

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

他の新聞紙での疼痛の我慢と治療の是非の特集を先に見ました。 我慢強い日本人が多いだけに、みんなで協力しないと、より良い未来は難しいですね

他の新聞紙での疼痛の我慢と治療の是非の特集を先に見ました。

我慢強い日本人が多いだけに、みんなで協力しないと、より良い未来は難しいですね

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分かりにくいダメージと鎮痛剤の複雑な関係

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

慢性損傷や高エネルギー外傷の場合、傷のサイズや痛みの自覚症状の訴えや出血量と重症度や致命率は必ずしも相関しないという悩ましい問題があります。 そ...

慢性損傷や高エネルギー外傷の場合、傷のサイズや痛みの自覚症状の訴えや出血量と重症度や致命率は必ずしも相関しないという悩ましい問題があります。

そこに、鎮痛剤の問題も重なります。
よく効く薬は、様々な症状を覆い隠してしまいます。
経験したスポーツによる膝の損傷と顔面裂傷を例にとります

スポーツによる損傷は、一般論として、トレーナー、開業医や整骨院の治療での治癒がうまくいかない場合、靭帯や半月板、筋骨格などの、眼やレントゲンでは見えない重症やの可能性を考えて、大きな病院でMRIを撮られるほうが無難です。
怪我は、怪我と確認されなければ怪我ではないので、無理してしまう選手も多いと思います。
負傷状況に応じた柔軟な選手の使い方をできるチーム状況とは限らないので、そういう意味ではチームと個人の利害相反もあります。

次に、サッカーの小競り合いで眼瞼裂傷の関連。
傷口が小さい場合、一般人の感覚だと傷が小さい=ダメージが少ないと考えがちですが、実はそうではなくて、傷の発生にかかるエネルギーが内部に向かっている可能性も考慮しないといけません。
その場合、脳震盪に準じた状態や慢性期の脳内出血や眼窩吹き抜け骨折を考えて、意識レベルの低下と複視の出現を予測する必要があります。

鎮痛剤は損傷を治すわけではないが、快適な生活やちょっとした無理を支えます。
そこに依存症や集団生活、致命傷の可能性の問題も合わさってきます。

やみくもな鎮痛剤の使用と同じく、やみくもな禁止も問題です。
折角ですから、また取り上げていただければと思います。

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適切な鎮痛医療を学ぶ苦痛とどう向き合うか

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

5月2日の「患者本位の検診に」にもコメントを書きましたが、実際、医学の内容の更新を一部の医師だけで行っても、うまくいきません。 過去の医療に携わ...

5月2日の「患者本位の検診に」にもコメントを書きましたが、実際、医学の内容の更新を一部の医師だけで行っても、うまくいきません。

過去の医療に携わった上級医師のメンツ、スタッフの認識、市町村や患者の認識、そういう部分は半ば宗教的であり、既存の意識を塗り替えるのは半ば宗教戦争のような部分もあります。

「宗教は人民の阿片である」という言葉が思い出されますが、認識を変えるという苦痛も含めてどう運用するかという高尚な悩みともいえます。

昔ほど医師の権威が強い時代ではなく、科学的に塗り替えていくことが要求されますし、旧来の医療を好む人との折り合いもつけていかないといけません。

日本ではオピオイドは麻薬扱いなので稀ですが、類似の強力な鎮痛剤や少し弱いNSAIDsも含めて物質依存や心理的依存は存在します。

自分もスポーツは長くやってきたので、自分自身や周囲の出来事も含めて、痛みとどう向き合うかは一つのテーマでしたが、痛みのことや、薬のこと、スポーツ医学やスポーツを深く学ぶほどに、様々なアプローチがあることを知りました。

痛みに限らず、諸症状は身体からのサインであり、不快ですが悪ではありません。
しかし、不便や不快感を抱えながら生きていくには、学びや心の余裕が必要であり、いつでもそういう時間や余力が持てるわけでもありません。

改めて、専門家を尊重しながらもみんなで考えていく時代です。

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