文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

元ちゃんハウスより~がんと生きる医師・西村元一の手紙

コラム

揺れる心 人との交流が支え

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
column-nishimura300-300

 一昨年3月に病気が見つかり、気がつけば2年を過ぎていました。その間に抗がん剤治療、手術、放射線治療、さらに免疫治療まで、できそうな治療はだいたい行いました。後悔がないといえば うそ になりますが、当初の病状から考えると、こうして今も命があるということは、治療の選択は決して悪くなかったのではないかと自分に言い聞かせています。

 一昨年の冬から夏にかけての9か月余りは、治療によって、ある程度、病気のコントロールができていました。体調が良い時は、「もしかしたら、このまま 上手うま くコントロールし続けられるかも」と、甘いことを考えることさえありました。この時は、先行きのこともあまり気にならず、色々な活動を精力的に行っていました。

 しかし、がんの進行により、症状は確実に悪化していきます。抗がん剤・放射線治療の副作用による味覚障害、手足のしびれや脊椎の変形が原因の様々な症状が加わって、確実にQOL(生活の質)が落ち、できることが限られてきています。使える抗がん剤もどんどん減ってきています。

 病状の悪化に伴い、精神的なプレッシャーも高まります。先行きの不安が現実的なものになってきて、様々な症状や不自由な状況がこのまま続くのかと思うと、それだけでも気分が 滅入めい ります。

ふと思う「いつまで生きられる?」

 今までも2回ほど、しばらく気分が落ち込んだことがありました。最初は、病気の告知を受け、治療が始まったばかりで、先行きがどうなるか分からなかった時。そして2回目は、手術後間もなく、再び病状が悪化してしまった時です。

 気分的に落ち込むと、周囲にあまり関心がなくなり、人と話をすることさえも面倒になります。テレビや本などの娯楽に対する興味が薄れ、音楽を流して寝ている時間が増えます。

 以前の2回と明らかに異なっているのは、時々ふと「いつまで生きられるのだろうか?」「使える薬がなくなって、『緩和ケア』を提案されたら、気持ちの整理がつけられるか?」という思いが脳裏をかすめ、日中、急に恐怖に襲われたり、夜中に突然目が覚めてしまったりすることが増えてきたことです。睡眠剤や精神安定剤のお世話になる場合もあります。

目標や喜びを見出すことの難しさ

 このような段階になって、やっと分かってきたことがあります。以前、自分の患者さんなどに対しては、「気分が落ち込んだ時には身近なことでいいので、何か目標を持ちましょう」とか「日々の生活の中で、小さなことでいいので喜びを見いだしましょう」と言ってきました。自分が患者になってからも実践してきたつもりです。

 現在も、この考えは基本的には変わりません。しかし、一日の行動が限られるようになると、「目標を持つ」「喜びを見出す」ことが、結構難しいということも分かってきました。

 北陸では、冬の間はたいてい天候が悪いので、外に出ることも少なくなります。「春になったら……」と思っていましたが、いざ春を迎えると、思っていたよりも何もできず、うれしく思えない自分がいて、 唖然あぜん としています。

利用者になって分かったこと

 自分にとってラッキーだったのは、仲間と一緒に作った『元ちゃんハウス』があることです。最初は、医療者の立場から、患者さんや家族のためという思いがあって始めたのですが、やってみると、スタッフのやり 甲斐がい にもなっていることが分かりました。

 最近は、患者さんと話していて共感することが多く、どちらがピアサポートを受けているか分からない時さえあります。そして時間がある時は、元ちゃんハウスに行き、患者さんやスタッフと話をするということが目標の一つとなりました。

 いつも一緒に行ってくれる家内は、時々笑いながら「自分のために作ったんじゃない?」なんて言います。利用者として、これだけ有用性を実感しているのですから、他の患者さんのためになっていることは、間違いありません。

 昨年初めに基金を創設した時は、自分が生きている間に完成するかどうかも分かりませんでしたが、たくさんの皆さんの支援のおかげで、昨年12月1日に現実のものとなりました。自分自身で、その効果を検証できたということは、本当に、本当に幸運だったと思う、今日この頃です。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

nishimura_200

西村 元一(にしむら・げんいち)

 金沢赤十字病院副院長、第一外科部長。1983年、金沢大学医学部卒業。同大学病院教授を経て、2008年4月より金沢赤十字病院外科部長、09年副院長に就任。専門は大腸外科。日本外科学会、日本消化器外科学会、日本消化器病学会など複数の学会の専門医・指導医。がんとむきあう会代表。15年3月、肝臓に転移した胃がんが見つかった。闘病前から温めていた「街中にがん患者が医療関係者と交流できる場所を」という願いを実現し、16年12月、金沢市内に「元ちゃんハウス」をオープンした。17年5月死去。がんとむきあう会のウェブサイトはこちら

元ちゃんハウスより~がんと生きる医師・西村元一の手紙の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、ヨミウリ・オンライン(YOL)、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事