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コウノドリ先生 いのちの話

からだコラム

[コウノドリ先生 いのちの話]失うもの 得られるもの

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 親の死とは、あなたの過去を失うこと。配偶者の死とは、あなたの現在を失うこと。子どもの死とは、あなたの未来を失うこと――。米国のユダヤ教聖職者で、子どものうちから生と死の意味を考えさせる「死の準備教育」を説いてきたグロルマン氏の言葉です。

 妊婦のたらい回し問題が世間を騒がせていた10年ほど前。ある新聞記者さんに「産婦人科っていかにもしんどそう。辞めたくなりませんか」と聞かれたことがあります。「いや、辞めさせないでくださいよ」と返したものの、自分でも何で続けているのか、時々不思議に思うことがあります。

 日本は今、新生児が亡くなる周産期死亡率と妊産婦死亡率が世界で最も低い水準にあります。特に妊娠による母体死亡は、年間わずか50人前後。だからこそ、元気に家に帰れるはずの赤ちゃんやお母さんを亡くした時は、家族が未来や今を失うように、周産期医療に携わる者たちも多くのものを失います。

 大切に取ってある手紙があります。「おかあさんをげんきにしてくれてありがとう」と書いてあります。

 以前、 分娩ぶんべん 後に大量出血し、輸血も追いつかず、心停止に至った妊婦さんがいました。院内の戦力を総動員して止血手術に当たり、一命を取り留めました。ただこの時は、「これで助けられなかったらもう産科医は辞めよう」と思いました。

 その後、お母さんは驚異的な回復を遂げ、後遺症もなく退院。そんな中で幼稚園児の娘さんが私に手紙をくれたのです。この言葉のおかげで、失いつつあったものを一気に取り戻せたように思います。

 失うものばかりなら、こんな仕事、とっくに辞めています。その何倍も得られるものがあるから、産婦人科医を辞められません。

 (りんくう総合医療センター産婦人科部長 荻田和秀)

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