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片目失明なのに障害認定されず…重要な問題提起に、説明も反論もなし

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片目失明なのに障害認定されず…重要な問題提起に、説明も反論もなし

 厚労省の視覚障害の認定基準に関する検討会を傍聴して、視覚障害の見え方の実感を、会に参加していた人たちがどれだけ理解できているのかという懸念は、片目失明の会の参考人の意見陳述時にも感じました。

 第1回検討会に提出された日本眼科学会と日本眼科医会の合同委員会からの報告書に、「片眼失明者の障害認定基準の見直し」は必要ないと記載されていることに対して、参考人は疑問を投じました。

 とくに、WHOの基準で片目0.6以上はほぼ正常としている点の根拠は何かという点と、片目では遠近感がつかみにくいが次第につかめるようになるといっているが、根拠となるものはあるのかという2つは重要な問題提起です。

 不思議にも、上記の合同委員会の委員であった眼科医のうち、5人が本検討会の構成員にもなっているのに、彼らからは参考人の疑問について何ら説明も、反論もありませんでしたので、代わりに私が回答を試みましょう。

 ある人が、右目小数視力0.63(日本で用いられる小数視力に換算したため、小数点以下2桁になっています)、左0だったとします。片目の失明ですが、日本基準では視覚障害となりません。

 世界眼科学会で、世界標準にしようと推奨されている機能的視覚スコア(FVS)から視力スコアの計算をしてみましょう。0.63は視力スコアで90点になり、0は0点です。

 視力スコアの計算は両眼60%、左右それぞれ20%を加える方法なので、この人の機能性視力スコアは72点です。これをWHOの国際統計範囲に照らしますと、ロービジョン(低視力)に含まれることになります。

 次に、片目失明者の見え方についてです。

 私が、片目の不自由さを実感してもらうのによく例に出すのは、片目に眼帯をして階段を駆け下りてごらんなさい、必ず転んでけがをしますよ、ビールを不透明のグラスに注いでごらんなさい、たいてい失敗しますよという話です。

つまり、両目が働くからこそ左右の視差の違い(左右眼は違う角度で対象物を見るために生ずる差)を脳が計算して、距離感や立体感を認知できるのです。

 これが両眼視機能です。

 奥行きの手がかりには、ほかにも対象物の相対的大きさ、像の重なり、陰影、コントラストなどいくつかありますが、両眼視機能は微細な視差を反映させますので精密かつ正確です。

 また、片目を遮閉して片目でみると、両目で見る状態に比べて瞳孔径が大きくなるため、結果として近視化や視力値の低下が生じることもわかっています。

さらに、両眼視していた人が単眼視になると、読み書きの持続力は低下し、短時間作業で眼精疲労の多様な症状が出現してくることは臨床上でもよく経験します。

 なぜ5人いる眼科医構成員から、疑問への回答がなかったのか不思議です。まさか、的確な説明ができる人がいなかったというわけではないと思います。

 私も数年前、視覚に関する障害年金の専門家会合の委員をしたことがあります。確かに視覚障害の団体やメディアの方々が傍聴している公開の場で発言することは、少々勇気が要りますし、知識が不正確だったらまずいと発言を控えることもあることは理解できます。

 しかし、発言がないことは、問題を無視したことになりはしないか、非眼科医の関係者は理解する機会を永遠に失うのではないかと案じるのは、私の思い過ごしなのでしょうか。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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