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赤ちゃんとハチミツとボツリヌス
乳児で国内初の死亡例
生後6か月の赤ちゃんにハチミツを混ぜたジュースを飲ませたことで、乳児ボツリヌス症を発症してしまった事例が報告されました。ボツリヌス菌は、瓶詰や缶詰などの身近な食品で増殖して、食中毒の原因となります。ハチミツは、ボツリヌス菌を含んでいることがあるため、1歳未満の赤ちゃんに与えてはいけません。今回は、このボツリヌスについてのお話です。
酸素に弱い細菌
ボツリヌス菌の重要な特徴として、酸素が嫌いだということが挙げられます。このため、ボツリヌス菌は、瓶詰めや缶詰、あるいは真空パックなど、空気に触れにくい食品で増殖しやすいのです。さらに、酸素のある環境では 芽胞 という、ヒマワリの種のような殻に覆われているのですが、低酸素状態になると発芽し、強力な毒素をつくるのです。
ボツリヌス菌の毒素は神経に作用し、ごく少量でも呼吸に必要な筋肉を 麻痺 させます。わずか500グラムで人類を滅ぼすこともできるといわれ、生物テロに使われることも心配されています。
感染すると、数時間~数日で症状が出てきます。成人の場合は、最初は眼に関する症状が多く、視力低下、複視(ものが二重に見える)、 眼瞼下垂 (まぶたが下がる)などが表れます。続いて、飲み込みや歩行が難しくなり、病気が進行すると呼吸困難になります。乳児では、泣き声が小さくなり、乳を吸う力も弱まります。全身の筋力が低下して、頭や手足を支えることができなくなります。
繰り返す集団食中毒
ボツリヌスという名前は、ラテン語でソーセージ(腸詰)を意味する「botulus」が基になっています。これは、19世紀末にボツリヌス菌がヨーロッパで認識されたころには、自家製ソーセージによる食中毒が多かったことに由来するといわれています。
過去の集団食中毒の例をみながら、その事実を確認してみましょう。
日本ではじめて報告されたボツリヌス食中毒は、1951年に北海道で起こった自家製の「いずし」が原因でした。魚類を発酵させる食品は、酸素の嫌いな菌にとっては絶好の 棲 み 処 だったのです。
84年には、熊本で製造された真空パックの辛子レンコンによる食中毒が起こりました。この時には、14都道府県で36人の患者が出て、そのうち11人が亡くなりました。
2006年、タイで過去最大の集団発生が起こりました。自家製のタケノコ缶詰で、209人が発症し、134人が入院、呼吸筋の麻痺で42人が人工呼吸器をつけました。
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