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知って安心!今村先生の感染症塾

医療・健康・介護のコラム

赤ちゃんとハチミツとボツリヌス

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なぜ1歳未満はダメ?

 通常は、ボツリヌス菌がハチミツに入ったとしても、菌の量はごくわずかです。大人の消化管内では発芽せず、毒素を作りません。しかし、詳しい仕組みは、まだ解明されていないのですが、1歳未満の乳児の未熟な消化管では、ボツリヌス菌が発芽して強力な神経毒をつくり出す場合があるのです。

 かつて日本でも、乳児ボツリヌス症の発生が続いたことがあります。このため、1987年に当時の厚生省が、「1歳未満の乳児にハチミツを与えないように」と指導するよう、都道府県などに通知を出しました。

妊婦でなくても要注意

 今は、妊婦に対しては、母子手帳や妊娠中の啓発用冊子などで情報提供されています。そのため、ハチミツに注意が必要なことは常識と思っているお母さんも多いでしょう。

 大半の場合、ハチミツ瓶のラベルにも、1歳未満の乳児には与えないよう記載されています。しかし、小さな文字で書かれた注意書きに気付く人は多くありません。甘くて喉ごしの良いハチミツは、子どもに食べさせやすい食品でもあるので、その情報を知らなければ、乳児に与えてしまう危険性があります。

身近に潜む危険

 近年は、瓶詰のキャビアやオリーブなど、輸入食品によるボツリヌス食中毒も報告されています。自家製の瓶詰め野菜や、井戸水、湧水による感染も起きることがあります。ボツリヌスがつくり出す毒素は、100度で10分間加熱することで不活化するとされていますが、オリーブなどの加熱しない食品も多く、なかなか発生を完全には防ぐことはできません。

 最近は、保存用のガラス瓶「メイソンジャー」でつくるサラダが人気です。持ち運びや保存に便利で、見た目もオシャレなのですが、蓋を閉めると真空に近い環境になり、ボツリヌスが活躍するには好条件となってしまうのです。米疾病対策センター(CDC)は、家庭における野菜などの瓶詰に対して注意喚起しています。

 『 Home Canning and Botulism 』CDC

 ボツリヌスは、土壌中など自然の環境に存在している菌です。決して発生の頻度は高くありませんが、「あなたの身近にもボツリヌスの危険は存在している」ということを知っておいてください。

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宋美玄のママライフ実況中継:乳児にハチミツは危険…知らなかった人は「非常識」なのか

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今村顕史(いまむら・あきふみ)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。著書に『図解 知っておくべき感染症33』(東西社)、『知りたいことがここにある HIV感染症診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)などがある。また、いろいろな流行感染症などの情報を公開している自身のFacebookページ「あれどこ感染症」も人気。

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