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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

コラム

第78話 「国民の理解が得られていない」という言い訳

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 あいかわらず日々、性的マイノリティーをめぐる動きが起きています。あれが時代の転換期だったとあとから振り返られるのか、しょせん時代風俗の一挿話だったとして忘れられるのか……。神ならぬ身にはわかりませんが、ここではとにかく記事を積み重ねてゆきたいと思っています。

 さて、今回は「あれからどうなった?」なニュースが2題、新規の話題が一つです。

札幌市のその後

 自治体が同性パートナーシップを公認の動きに関し、 第70話 で、札幌市も制度導入を検討中だとお伝えしました。戸籍上同性の2人がパートナーシップの宣誓を行い、市がその受領証を発行してパートナー証明をする制度です。自治体による同性パートナーシップ公認制度としては全国で6例目ですが、政令指定都市では初めてで、スタートすればこの種の制度が195万人都市に拡大することになります。

 市は当初、4月1日からの開始を目指していました。しかし、自民党の市議らから、「市民の理解が深まっていない」との声が上がり、一時はこのままお蔵入りかと懸念される事態に。地元当事者たちの働きかけが続き、全国からも1000通余りの賛同の声が市に寄せられた結果、3月21日の市議会予算特別委員会で、6月1日からの開始が表明されました。それでも、公明党と共産党の議員から早期実施が強く要請される中、2か月延期された形です。

世田谷区のその後

 同性カップルの公営住宅入居を巡っては、 第72話 で、世田谷区が3月の議会で家族向け区営住宅に同性カップルも応募・入居できるように条例の改正を提案していることを紹介しました。その後、区議会では公明党を中心に「大切な対策だが、区民への周知が不十分で、意見をもっと聞くべきだ」などといった意見が相次ぎ、結局、継続審議となりました。議会の討論では、まずパートナーシップの公認を条例などできちんと定め、それに則して区営住宅への応募を認めるべき、という趣旨が述べられていました。条例を作るところから始めよ、というのは、正論に聞こえて、その実、たんなる引き延ばしのように私には聞こえました。

 住宅条例の改正は同性カップルにも男女カップルと平等な応募資格を与えるものであり、単身者や障害者・高齢者を差し置いて同性カップルを優遇するものではありません(単身者用や要配慮者向け住宅は別にあります)。区長提案の議案が議決されないのは、区では1980年以来とのことです。

文科省のその後

 最後は、10年に一度改訂され、教科書の基準ともなる文部科学省の学習指導要領と性的マイノリティーをめぐる話です。

 小中学校の保健科目の教科書には、「思春期には異性への関心が芽生える」などといった記述があります。こうした一面的な表現が、同性に関心を寄せたり、逆に異性に性愛的な関心が湧かなかったりする児童・生徒に、自分を異常だと感じさせかねないという点が指摘されてきました。かねて「教科書にLGBTを」というキャンペーンも行われており、文科省案に対してもパブリックコメントの送付が呼びかけられました。

 しかし、3月末に官報で告示された新指導要領には、性的マイノリティーへの言及はありませんでした。寄せられたパブリックコメントに対し、文科省は「『性的マイノリティー』について指導内容として扱うのは、保護者や国民の理解などを考慮すると難しい」と回答しています。( 結果は文科省サイトからダウンロード可 意見番号40、41)

三つの話題の共通点

 これら三つの話題から、その「共通点」が見えましたでしょうか?

 いずれも、「国民(市民・区民)の理解が伴わない」とことを理由に、「やらない」選択がされていることです。この論法は、こと性的マイノリティーを巡って珍しいものではありません。

 私は、東京都が2000年にはじめて人権施策推進指針を策定したとき、当初は盛り込まれていた同性愛者の人権への言及が削除され、のちに復活したいきさつを 第65話 で、紹介しました。削除の背景には、知事のツルの一声があったとか、その意向を「忖度(そんたく)」したとか、いろいろ言われましたが、当時の担当課長は後年、私の取材に、「新聞の世論調査で同性愛を容認できないという意見も多かったから」と答えたことがあります。しかし、この調査は、意見陳述に招かれた同性愛の当事者団体が、「このような状況だからこそ、行政の公的認知が必要」という文脈で紹介したデータでした。

 まさに今回の三つの事例と同様、「国民(市民・区民)の理解が伴わない」が、やらない理由とされている事例です。

 世の中が変わったあとに追随することは、誰にでもできます。しかし、ことは人権問題にかかわる事柄です。だからこそ行政や政治が率先して理解促進に努める責務があるのではないでしょうか。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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1件 のコメント

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当事者がもっとアウトを

カイカタ

やはり、認知度や理解度が低いのは、アウトする人がまだまだ少ないという現状があるのかもしれません。お上に率先して変えていただくというだけでは不十分...

やはり、認知度や理解度が低いのは、アウトする人がまだまだ少ないという現状があるのかもしれません。お上に率先して変えていただくというだけでは不十分な感じがします。ある程度、社会の理解が合ってこそ、行政も動きやすくなると思えます。もうちょっと必要だと思います。

ですので、ゲイ・パレードをもっと継続して行いましょう。また、メディアでも、ゲイのライフスタイルを堂々と紹介する機会を増やすとかが大事で、それが、行政を動かすベースになると思います。

例えば、沖縄の辺野古新基地をめぐる県知事の中央政府との対決姿勢は、知事の考え一つだけでなく、大きな県内世論のバックアップがあってのことです。また、工事現場の入り口の座り込みには多数の方々が押し寄せ、それが象徴となっています。行政を動かすためのベースとなる世論づくりが大事だと思いますね。

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