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宋美玄のママライフ実況中継

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乳児にハチミツは危険…知らなかった人は「非常識」なのか

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色違いのスニーカーで歩く子ども達です。

色違いのスニーカーで歩く子ども達です。

 長かった春休みも終わり、またお弁当作りの日々が戻ってきました。息子はようやく一人で歩けるようになりました。娘は弟と手をつないで歩けるのがうれしいようで、段差やエレベーターでは抱っこをしながら、マンションの廊下を一緒に歩いています。色違いのスニーカーで歩く姿が、とてもほほえましいです。娘は一人っ子の時期が長かったので、いまだに弟がほめられるとすねますが、弟が生まれたことは、「良かった。いないなんて考えられない」と答えます。親としては、とても嬉しいことです。

母子手帳に載ってはいるけれど…

 とても悲しいニュースがありました。

 東京都で、離乳食としてはちみつを与えられた生後6か月の男の子が「乳児ボツリヌス症」で死亡しました。都の発表によると、男の子は今年1月から、ジュースに市販のはちみつを混ぜたものを1日平均2回ほど与えられており、2月半ばにせきなどの症状が出て、3月末に死亡しました。便や自宅のはちみつからボツリヌス菌が検出されたそうです。

 このニュースを受けて、SNSでは「乳児がはちみつを食べてはいけないというのは常識だ」という意見が多く見られました。乳児は腸内細菌のバランスが未熟なため、ボツリヌス菌が口から入った場合に繁殖を防ぐことができません。はちみつがいけないことは、確かに母子手帳にも記載されていますし、今ではこれは「常識」とされていると言って良いかと思います。

 しかし、母子手帳をすみからすみまで読まない人もいるでしょうし(本当は読んでほしいのですが)、医療機関や乳幼児健診で必ず教えてくれるわけでもないので、知らない人がいてもおかしくありません。実際に、レシピ投稿サイトではちみつを使った離乳食が載せられていたり、古くはグルメ漫画に紹介されたりしたこともあります。「赤信号は『止まれ』のサイン」というほどには、全国民に周知されているとは言えないのが現実です。

実は「黒糖も危険」…私も知りませんでした

 赤ちゃんや子供の「食の安全」については、大人が気をつけるしかない問題ですが、自分でも100%わかっているかというと、自信がありません。私も、今回のニュースをきっかけに、はちみつと同様の理由で乳児には黒糖をやらない方が良いということを、初めて知りました。土壌にいるボツリヌス菌は熱に耐性があり、通常の調理での加熱では死滅しないことも多いため、サトウキビから黒糖を作る際に残っていることがあるのだそうです。

 黒糖をわざわざ離乳食に使う人は多くないとは思いますが、「白い砂糖には漂白剤が使われている」や「白い食べ物は体を冷やす」など、事実ではない情報を信じて、いつも砂糖の代わりに黒糖を使っている人は、赤ちゃんの食事にもそうしているかもしれません。十分洗っていない野菜や果物だって、注意が必要です。食の安全というと、残留農薬や食品添加物を気にしがちですが、基準範囲内の農薬や添加物よりもこわいのは寄生虫や腐敗です。大人が適切に判断して食べさせる必要があります。

食の安全、考え直す機会に

 妊婦、授乳婦、赤ちゃんが口にするものには様々な注意事項があり、「取りすぎに気をつけなければいけない」ものと、「絶対に避けた方が良い」ものがあります。一方で、リスクをゼロにしようとすると栄養が偏ったり、食べられるものがまったくなくなってしまったり、食事を全然楽しめなくなったりしかねません。私自身、その兼ね合いはなかなか難しいと、日々感じます。

 今回の件では、知らなかった人を非常識だと責めるのではなく、食の安全を守る上で必要な情報をどう周知するか、その方法を考え直す機会にしたいと思います。

【関連記事】
知って安心!今村先生の感染症塾:赤ちゃんとハチミツとボツリヌス

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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出典について

宋美玄

 記事中の「(ボツリヌス菌が)サトウキビから黒糖を作る際に残っていることがある」という記述に対して、「出典を知りたい」とのコメントを複数、頂きま...

 記事中の「(ボツリヌス菌が)サトウキビから黒糖を作る際に残っていることがある」という記述に対して、「出典を知りたい」とのコメントを複数、頂きました。この点については、1998年発行の「栄養学雑誌」(Vol.56 No.3)に掲載された論文「改定『離乳の基本』の通知とその背景について」の中で、「黒砂糖にもはちみつと同じく(ボツリヌス菌の)芽胞を含むことがあるので、同様に扱うことが望ましい」と書かれています。黒糖も危険だとは、私もこれを読むまで知らなかったので、驚きました。

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黒糖

10ヶ月ママ

今回の件を受けて黒糖も危険だという話をネットで目にするようになりました。でも厚労省が明確に注意喚起しているのははちみつで、黒糖については特に言及...

今回の件を受けて黒糖も危険だという話をネットで目にするようになりました。でも厚労省が明確に注意喚起しているのははちみつで、黒糖については特に言及されていません。母子手帳や持っている育児書にも記載はなく、自治体の離乳食教室でも話はありませんでした。黒糖をあえて離乳食に使おうとは思いませんが、本当にはちみつ並みに気を付けるべきものなのでしょうか?宋先生のコラムは医療従事者の情報ということで信頼していますが、黒糖の危険性について科学的あるいは医学的根拠があって言及されているのかどうか気になりました。

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黒糖も危険なのですか?

dodo

SNS等で、黒糖も危険という話を見かけてその根拠を探していたのですが、確かなものが見つからずにいました。 「サトウキビから黒糖を作る際に残ってい...

SNS等で、黒糖も危険という話を見かけてその根拠を探していたのですが、確かなものが見つからずにいました。
「サトウキビから黒糖を作る際に残っていることがある」という情報のソースは何処ですか?

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