元記者・酒井麻里子の医学生日記
医療・健康・介護のコラム
いよいよ実習、真新しい白衣に思うこと
4月に入り、日に日に夜明けが早くなってきました。同級生と続けている朝のジョギングも、つい最近まではまだ暗い中を走ることが多かったのに、今は朝日を浴びながら走れるようになりました。
昨年は大教室に座って授業を聴くことが大半でした。いずれそんな時間を懐かしく思うことになるでしょう。というのも、3月から大学病院での臨床実習が始まったからです。
これからの1年は、大学病院を中心に、実際の医療現場で実習します。大学病院では、5~6人が1グループになり、1診療科あたり1~2週間かけて学んでいきます。
実習開始にあたり、基本的な診療技能や態度を身につけているかを見る実技試験「OSCE (Objective Structured Clinical Examination)」が、1月にありました。それに向けて、手術室に入る前の手の洗い方や、手術用のガウンの着方などを学びました。外科系の診療科の実習では手術に立ち会うことも増えるため、すみやかに手術室に入れるようになっていなければならないからです。
実技では、聴診器で胸やおなかを診察する方法、人形を使った静脈採血、心電図の取り方や外来での医療面接、心肺蘇生法などを勉強しました。
そうして最初に迎えた実習の場は、小児科でした。
実際に現場を見られるという喜びに浸れたのは、ほんのつかの間。大変な仕事だと痛感しました。
例えば、患者さんが実際にどんな訴えで病院に来るのか――教科書を読んだり講義を聴いたりしているだけでは、わからないことだらけです。「せきが出る」という症状一つでも、考えなければならない病気はたくさんあります。
教科書にはそれぞれの病気の特徴が書かれていますが、実際には、それらがすべて現れるとは限りません。時間がたてば、症状も変わっていきます。病名とその特徴を組み合わせて覚えていったこれまでの勉強法とは違った角度から学ぶ必要があります。診断を下すためには何を尋ね、どんな検査をするのかを、優先順位を考えながら次々と判断しなくてはなりません。
これまでの座学では、問題を解いている時に、体を診察した結果や検査結果が設問として出され、何の病気なのかを考える訓練を積んできました。設問には必ず正答がありました。でも、実際の現場では、答にすぐにたどりつけるとは限りません。医師として一人前になるには、たくさんの知識と経験、そして判断力が必要なのだと感じました。
実習が始まって約1か月。大変だと感じながらも、実際の現場で学べる日々はとても充実しています。記者の時は限られた取材時間内でしか聞けなかった話を、目の前の専門家にいつでも教えてもらえるなんて、本当にぜいたくなことです。
慣れないせいで疲れはしますが、それぞれの診療科での実習時間を大切にしたい。日曜日の昼下がり、真新しい白衣にアイロンをかけながら、そんなことを思っていました。
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学生の運動器健診では、時間がある時は真面目なスポーツ部員さんの悩みに医師の枠を超えてやらせて頂いています。 30歳を超えた選手キャリアや内科と整...
学生の運動器健診では、時間がある時は真面目なスポーツ部員さんの悩みに医師の枠を超えてやらせて頂いています。
30歳を超えた選手キャリアや内科と整形外科の知識に加え、一定以上の画像診断のスキルや運用を知っている熟年アスリートというのは多くありません。
また、怪我や病気なりの体調でのプレーとか、現実との折り合いの付け方は分かります。
サッカーは複合競技です。
走ること一つとっても、超長距離の要素から超短距離、障害物競走の要素があります。
また、色々な体勢から色々な動作を繰り出すので、学びや練習に限りはなく、他競技の選手の本やトレーニングの本を参考にします。(他競技の選手の助言にも使えます)
勿論、禅であったり、経営や心理学であったり、心や頭の学びも活きます。
これから廉価なAiに一般知識や標準医療が搭載されていく中で、現在の標準医療にないものや相手に合わせた細やかな応用が医師にとって重要な存在価値になります。
スポーツ選手相手であれば、怪我の標準治療だけではなく、リハビリや治癒期間での過ごし方や代替動作や代替行為の提案など、その人のプレーや人格への介入なんかも付加価値を生むかもしれません。
そのためにも病院内での学問も大事ですし、逆にそうでない学びや体験も大事です。
心療内科学的な全人的アプローチの発想です。
スポーツ人生のような特殊な人生のみならず、個人史の長い後期高齢者において重要になるのではないかと思います。
病院で先輩医師の現在の標準医療を見ながら、同時に新聞記者時代の体験や知見を加えると、未来像や自分の立ち位置もイメージしやすくなると思います。
週に15分くらい、記者の目線での日記をつけられるとよいでしょう。
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いつものクセで放射線科学会に来ています。 機械の進歩も多岐にわたり、ソフトや関連機器やモニターの精度も良くなり、画像情報のネットワークなどのイン...
いつものクセで放射線科学会に来ています。
機械の進歩も多岐にわたり、ソフトや関連機器やモニターの精度も良くなり、画像情報のネットワークなどのインフラ産業も進歩しています。
しかし、進歩が良い部分だけでもないのが難しいところです。
「画像診断の爆発的進歩はパンドラの箱」だと思います。
人間の進歩と違い、機械の進歩はコストさえ許せば一気に変わります。
いままで「わからない」で済んだものが、急に「わからないといけない」に変わるわけです。
標準医療=常識の基準が上がれば、それだけ、医師個々人に求められる負担は増えます。
(新臨床研修医制度のもう一つの理由です)
また、どの程度が標準で、先進かは地域差や施設差も現実に存在します。
臨床センスという言葉がありますが、画像診断も手先の器用さと同じで、センスと努力の掛け算の部分がありますし、専門医というくくりでも人間の領域の人もいれば、超人的な人もいます。
そして、各分野の画像診断の専門医以外の医師とのバランスや一般人への説明も難しいです。
画像診断の絡んだ訴訟も増えていますが、昨今の爆発的な機械の進歩のなかで、知らず知らずに各医師の負担が増えている事実は一般人も理解した方がいいと思います。
実際問題、医療への期待値の急激な変化は、いくつかの分野や施設での医療崩壊の理由の原因だと思います。
まあ、病院実習の最初から達観しているのも良くありませんが、無理しないで続けていけるようなバランスが一番大事だと思います。
専門医制度も回り道医師や女性向きではないルールに決まりそうですが、王道だけが生きる道ではありません。
どうせ、一人前まで10年以上と言われる世界です。気長に行きましょう。
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