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「前の医師の処方薬で副作用」…そう診断した医師のとるべき行動は

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「前の医師の処方薬で副作用」…そう診断した医師のとるべき行動は

 医師のプライドを守るより、患者さんへの利益を守ることが大切。最近はやりの言い方をするなら、「患者ファースト」です。

 では、もし前の医師の処方が患者に不利益をもたらしていると判断した場合、その診断医はどういう行動をとるべきなのでしょうか。

 例えば、比較的重症なアレルギー性結膜炎やぶどう膜炎で、長年副腎ステロイドの点眼を継続していて、ステロイド性の高眼圧症や緑内障を発症してしまうことがあります。最近は医師がかなり注意していて、副作用の少ない薬剤の開発で随分少なくなりましたが、30年前は代替薬もなく、そういう症例はよくありました。

 もしストレートに「前の医師の処方薬が副作用を起こした」と言えば、その副作用のところだけを切り取って悪者にし、ついにはそれを処方した医師を悪者にするという短絡が起こるかもしれません。

 私は、なぜこの薬が必要だったか、しかしあらゆる薬には副作用があるが、今それが出てきているという事実をできるだけ丁寧に説明することにしています。

 いかなる薬にも作用と副作用があることは当然ですが、その前提が医師・患者間で共有されていないなと思うことがあります。

 欧米人は、薬に副作用があるのは当たり前、その薬物に自分が求める効果があるなら、多少の副作用は許容する人が多いです。しかし、日本人は、副作用は大小によらず敵だという潔癖さがあり、副作用を過度に恐れて利用すべき薬を拒絶してしまう例もよくみかけます。これが、しばしば紛争や訴訟に発展する一因となります。

 さて、今私が一番悩ましく思っているのは、薬物性 眼瞼(がんけん) けいれんや、「ベンゾジアゼピン(以下ベンゾ)眼症」です( 2016年8月11日コラム参照 )。

 ベンゾ系薬物や同様の作用を持つ非ベンゾ系薬物の連用が、 (まぶた) の運動異常や、目や視覚の快適さを損なうことにつながることはまだまだ知られていません。

 特に、これらの薬物は、ほとんどが精神科、心療内科、一般内科など非眼科から処方され、処方医に目や視覚の症状を訴えても取り上げられないか、眼科医に相談するように言われます。一方の眼科では、そうした薬物の副作用には関心が薄く、服薬歴を聞く医師はまれです。

 このために、これらの薬物の連用によって出現してくる薬物性眼瞼けいれんは、よほど重症化して瞼の周辺に不随意運動(ジストニア)が出現する事態に至らない限り、放置されがちです。

 そういう症例を見いだした場合、私は「日本にはベンゾ系を軽い薬だとして多用してきた歴史があり、それが今もなお続いていて、欧米に比べて意識に遅れがある。でも、これをうまく減量、できれば最終的に使用を中止していかなければ、あなたの症状は進行こそすれ、改善するチャンスを失う」ことを説明します、そして、文献などをつけて可能な限り薬物の減量・中止や変更を求める情報提供書を処方医に書くことにしています。処方医の7~8割は協力的です。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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