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【いのちの値段】新技術の行方(3)先制医療 リスクを知る

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【いのちの値段】新技術の行方(3)先制医療 リスクを知る

役員を務める企業のリゾートホテル「浜名湖レークサイドプラザ」を前に、検査について語る大澤さん(静岡県浜松市で)=園田寛志郎撮影

 静岡県浜松市の大澤 たかし さん(41)は、新聞記事になぜかハッとした。2015年5月のことだ。

 愛知医科大学病院(長久手市)「先制・統合医療包括センター」が、がんの発症リスク診断の遺伝子検査を始めるという。

 大澤さんは、リゾートホテルの経営企業に勤務する。30歳代で財務担当取締役に抜てきされた。年間の宿泊客は10万人以上。一つの判断ミスが多大な影響を及ぼす。ストレスは大きく、1日1箱の喫煙と過食傾向があった。

 がん家系ではないが、40歳代の知人が相次いでがんを患うのを見て、不安を抱いた。がんにかかれない。社員のためにも、妻や娘のためにも。発症前に、自力でがんの芽を摘みたい――そんな自分の気持ちに気づいた。

 同センター教授、福沢嘉孝さん(57)の検査は簡単だった。採取した2・5ミリ・リットルの血液を解析し、男性は8種類、女性は11種類の主ながんの発症リスクを「低」「中」「高」の3段階で示す。生活指導を含めた費用は自費で14万円だ。

 遺伝子検査は幾通りかある。米国の有名女優、アンジェリーナ・ジョリーさんが13年に受けた検査は、遺伝子「DNA」を対象とした。遺伝性のがんの可能性を調べ、乳がんの発症リスクが9割近かった彼女は乳房を切除した。

 センターの検査は、遺伝情報の一部がコピーされた「m(メッセンジャー)RNA」に着目する。mRNAの現れ方が生活習慣の影響で日々変化するとの考えに基づき、未病の段階で先手を打ち、個別に予防する「先制医療」を目指す。

 RNAとがんの関係に関する研究は、まだ科学的根拠を積みあげている段階だ。検査もリスク診断にとどまるが、複数が考案、実施されている。

 6月、大澤さんは、肺がんのリスクが「中」と出た。中は、放置すれば、リスクを示す曲線が発がんレベルを突破するという。翌日、きっぱりたばこをやめた。

 9月の検査では肺がんリスクが消えたものの、胃がんが「中」になった。急な禁煙で過食が進んでいた。食生活も改め、半年に1回の定期検査を続ける。「体の状態や改善の効果が可視化され、ピンポイントで理解できるから」と語る。

 センターでがんのリスク診断を受けた患者は、延べ390人。経営者や大手企業の重役らが多い。

 先制医療を含む予防医療には、医療費や介護費の抑制が期待される。だが、それに疑問を呈する指摘も根強い。「健康寿命が増加しても、多額の費用が必要なその後の『不健康な期間』を縮められる根拠がない」などが主な理由だ。

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