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介護・シニア
24時間対応「訪問サービス」…事業に負担、受け皿伸び悩み
低い収益性、人手不足
介護保険による24時間対応の訪問サービスが、導入から5年を迎える。国は団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年度には全国で15万人の利用を見込むが、利用者は現状で約1万6000人にとどまり、関係者の期待通りに広がっていない。ヘルパーや看護師が24時間体制で高齢者宅を定期的に訪問し、緊急の依頼でも駆けつけるが、事業所の負担が大きいことなどが足かせになっているようだ。
「のんびり、自分のペースで暮らせます。介護施設に入るよりずっといい」。東京都新宿区のマンションに住む加藤規久子さん(87)は笑顔を見せた。
加藤さんは要介護2。心臓病もあり、入浴や買い物に介助が必要だ。同居のめいが仕事で不在のことが多く、15年5月から、「SOMPOケアメッセージ」(本社・岡山市)が提供する「在宅老人ホーム」というサービスを利用している。24時間対応の訪問サービスを中心に、介護保険外の配食や家事などの支援を組み合わせ、自宅で老人ホーム並みの介護を提供するサービスだ。
加藤さん宅へは、新宿区内にある同社の24時間訪問サービス事業所からヘルパーが1日4~5回、1回10~45分訪問。入浴介助や買い物の付き添い、服薬の手伝い、掃除、洗濯などを行う。看護師も月2回、30分ずつ訪ね、心身の状態の観察や服薬管理などを担う。
ベッドのそばには、緊急通報装置が置いてある。ボタンを押すとオペレーターにつながり、必要があればヘルパーや看護師が訪問する。加藤さんは「まだ使ったことはないですが、装置があるだけで安心」と話す。
■かさむ人件費
同社が「在宅老人ホーム」を始めたのは15年2月。今は新宿、世田谷、杉並、葛飾、大田の都内5区で計約130人が利用している。だが、経営管理を行うグループ会社「SOMPOケア」(東京都品川区)の矢野功取締役は、「東京23区全体に広げたいが、24時間の訪問サービスは収益性が低く、簡単には事業所を増やせない」と悩む。
頻繁な訪問や緊急時の対応を行うには、提供地域を限定しないとサービスの維持が難しいが、狭い地域で採算が合うだけの利用者を確保するのも困難だ。また、24時間の訪問サービスについて、介護計画を作るケアマネジャーに理解が浸透していないことも、利用者が増えない要因という。一方、介護業界全体の人手不足で、ニーズがあっても対応しきれない側面もある。
24時間体制で職員が稼働するには人件費もかさむ。各地の事業所で作る「24時間在宅ケア研究会」の15年度の調査では、約4割の事業所が赤字だった。
■報酬引き上げを
厚生労働省の16年の調査では、約7割の人が、年をとってからも自宅で生活したいと答えるなど、24時間対応の訪問サービスの需要や期待は低くない。一方、24時間対応の訪問サービス事業所は少しずつ増えているものの、全国で約950だ。地方を中心に、事業所がない自治体が、全市町村の約4分の3を占める。
厚労省は18年度、介護サービスの公定価格である介護報酬を改定する。事業の安定経営のために、報酬の引き上げを求める声も高まっている。
24時間在宅ケア研究会の時田純名誉会長は、「小規模の介護事業所が24時間対応するのは難しい。組織力のある社会福祉法人が、各地でサービス提供に乗り出してほしい」と期待する。
〈24時間対応の訪問サービス〉 正式名称は「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」。ヘルパーや看護師が24時間体制で高齢者宅を定期的に訪れ、介護や看護を行う。利用者に緊急通報装置が貸し出され、転倒した際などに通報を受け、ヘルパーらが訪問する。対象は要介護1~5で、1か月あたり定額でサービスを提供する。訪問の頻度や時間は、利用者の状態により異なる。ヘルパーは毎日3~6回ほど訪ね、10分程度のこともある。看護師は1~2週間に1回程度訪問するケースが多い。
(安田武晴)
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