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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第77話 在留資格(ビザ)と同性パートナーシップ

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なぜ23年の仲を裂いて強制退去が命じられるのか

 3月24日、東京地裁に国を相手取って行政裁判が起こされました。台湾籍の男性に国が出した国外退去命令の取り消しを求めるものです。この男性には23年連れ添う日本人パートナーがいますが、その仲を裂いてまで、国は強制退去を命じました。そのパートナーは男性と同性、つまり二人はゲイカップルです。

 台湾籍男性は1992年に留学で来日し、その後、短期滞在のビザで滞在中にパートナーと知り合い、94年から同居。しかし、ビザが切れたあとも不法滞在を続けていました。見つかれば即、強制送還となる状況下、二人は息をひそめるような暮らしを続けます。そしてごく最近になり、ある弁護士らとつながり、不法入国や不法滞在でも特別の事情があれば認められる「在留特別許可」を求めて出頭する方向で相談していたところ、なんたる運命、路上で職務質問にあい不法滞在が発覚、逮捕。在留特別許可を求めるものの、東京入国管理局は認めず、昨年秋、退去強制令書を発付したのでした。

 この在留特別許可が認められる事情として、外務省のガイドラインは日本人との結婚をあげています。男性側は、同性カップルゆえにこれが認められなかったと主張しています。

 本件はネット上でもそれなりに反応がありました。23年の仲を引き裂く処置に同情する声もある一方、「どうしてもっと早く手を打たなかった」「法律は法律」「ゲイ差別だからと特別扱いすべきではない」、あるいは「台湾は同性婚ができそうなのだから、二人で向こうで暮らせば」とまで。

 「就労ビザなど合法的な在留資格を得る努力をしたのか」、という批判はたしかにあるでしょう。しかし、報道によれば男性は同居開始の翌年(95年)にHIV感染がわかり台湾の親族とも疎遠。現在のようなよい治療がなく偏見と死の病のイメージの中、パートナーが療養を支え、パートナーが抑うつ的になり働けない時期は、男性が家計を支えていたといいます。私はこの男性とある席で同席したことがありますが、長年の生活苦が身に影を落とし、つねに小さな声で沈みがちに話す姿がまぶたに残りました。不法滞在、エイズ、そして同性愛、天涯孤独……官憲の目におびえ、世間の目を忍び、23年も隠れるようにして生きてきた二人に、「もっと早く手続きをしておけば」と訳知り顔に叱る言葉を私は持ちません。

 不法滞在となっても、これが男女夫婦なら特別滞在が認められる公算が高いのに、同性カップルではなぜ認められないのか。これが裁判であらためて問われています。

 トランスジェンダーによる人権裁判は複数起こされていますが、同性愛者による人権裁判は、府中青年の家訴訟(97年高裁確定)以来、じつに20年ぶり。しかも、「23年のパートナーは夫婦同然ではないのか」、を争うものです。

 これまで婚姻届を同性二人で出しに行くアクションはまれに耳にしましたが、その不受理を裁判で争う例はまだ聞きません。突然ですが、日本の裁判所ではかつて一般傍聴人はメモを取ることが許されていませんでした。それに疑問をもったあるアメリカ人が最高裁まで争い、メモは許されるようになりました。憲法判例で誰もが習う「レペタ訴訟」(最大判平1.3.8)です。私は同性婚を争う裁判は外国人によって起こされるのではないかという予感を抱いていましたが、今回の裁判が日本同性婚のレペタ訴訟になるのか、判決もさることながらどのような判示がされるか、注目して見守りたいと思います。

日本人は海外で同性婚ができるか?

 いい機会ですので、今回は同性婚と在留資格、同性間の国際結婚などについてまとめて見てみましょう。

 日本国籍の人が外国人と海外で結婚する場合、現地の官公署へ婚姻要件具備証明書(通称、独身証明書)の提出が必要で、これは日本の法務局や本籍地の役場で発行してもらいます。

 この申請に、以前は結婚相手の性別を書く欄がなかったのですが、2002年5月24日に法務省の民事局民事第1課長が出した通知で相手の性別を記載するようになり、相手が同性の場合、この証明書を交付しないことになったのです。

 通知では、「今般、外国において認められている同性婚に使用するために同証明書が取得された事例がありました」「同性の相手方との婚姻について、……日本においても有効に成立させ得るように誤解されるおそれがあります」「婚姻の相手方が日本人当事者と同性であるときは、日本法上、婚姻は成立しないことから、同証明書を交付するのは相当でないと考えます」(『戸籍実務六法』所収)と述べています。また、市区町村役場へも、これに従うよう協力を求めています。

 これ以後、日本人は海外でその国に同性婚の制度があっても、同性婚ができない状態になっていたのです。日本国内で同性間の婚姻を認めないのはまだしも、海外で同性婚することまでも阻止しようとするのが、日本政府でした。

 これはさすがに問題視され、この通知が出てからじつに7年後の2009年、社民党の福島みずほ党首(当時)が申し入れ、法務省で検討の結果、婚姻要件具備証明の変更こそ行なわないものの、相手が同性の場合には別形式の証明書を発行することとなりました。これ以後、日本人も海外での同性婚がふたたび可能となっています。

 ところで、こうして海外で同性婚ができたあと、日本人であるご本人はどうなるのでしょうか。

 海外で婚姻すると日本国内の本籍地の役場に通知し、日本の戸籍にその旨、記入してもらいます。しかし、日本は同性婚を認めていないので、その婚姻を日本の戸籍は受け入れません(2009年当時に私が法務省の民事局民事1課に電話して聞いた回答)。つまり、お相手の国ではその日本人は既婚者になるけれど、日本に帰ると未婚者のまま、というわけなのです。

 しかし、同一人について国境の内と外とで法身分に違いがあっていいものでしょうか。たとえば、本人が亡くなると、配偶者は相続人となりますが、日本戸籍が受け入れない同性配偶者は相続人となれるのでしょうか? こうした課題は残されたままです。

同性婚した配偶者は、なんの資格で入国・滞在する?

 日本人が海外で同性婚する問題のほかに、適法に同性婚したふうふ(夫夫、婦婦)が日本に入国・滞在するときの問題があります。

 外国人が駐在などで日本に来るときは、それに相応するビザ(在留資格)で入国しますが(在留資格一覧)、もしその人の扶養を受ける配偶者や子がいる場合、配偶者や子は「家族滞在」というビザで入国します。同性婚したふうふについて、同性配偶者には「家族滞在」のビザは出るのでしょうか?

第77話 在留資格(ビザ)と同性パートナーシップ

入国管理局発行の在留資格などに関するパンフレット

 入国管理局は、『入国・在留審査要領』なる膨大なマニュアルを作成しています。その「家族滞在」の項には、「『配偶者』には、内縁の者及び外国で有効に成立した同性婚による者は含まれない」(「第25節 家族滞在」)と明記されています。

 また、外国人が日本で10年以上暮らし、「永住者」の在留資格を得て滞在する場合、本国から呼び寄せるなどした配偶者には、「永住者の配偶者等」という在留資格が与えられますが、それが同性配偶者の場合について上記『同審査要領』では、「同性婚に係る『配偶者』は、それが当事者間の国において有効に成立し得るものであっても、我が国において効力を生じ得ないものであるので、配偶者としては認めない」(同第29節 永住者の配偶者等」)としています。

 しかし、昨今のグローバル化で海外から日本へ駐在する外国人も増え、そのなかには同性婚している人もいます。配偶者を帯同しようとしても在留資格が出ないのでは、「日本ヘ赴任シタクナーイ」「早ク国ニ帰リターイ」ともなり、これでは優秀な人材が日本へ来てくれない、成長戦略にマイナスだ、との声も出るわけです。

 2013年3月15日、衆議院法務委員会で日本維新の会の議員が、まさに「成長戦略の一環として高度人材の同性配偶者の帯同を検討いただきたい」、と要請しました。それに対し谷垣法相(当時)は、

 現在、日本の家族法、親族法等々が委員のおっしゃるような方向ではないというのは、やはり日本人の考える家族観と申しますか、そういうものが背景にあるというふうに私は思っております。

 今後それがどういう議論になっていくかというのは、これはまたこれからの課題でしょうが、少なくとも、現状においては、私どもは、今の日本の民法あるいは日本の入国法に従って判断をするという以上にはちょっとお答えができないわけでございます。

 と答えています。(衆議院議事録、西根由佳議員への答弁)

 これは4年前の答弁で、当時、「成長に寄与しなきゃパートナーにビザを出してもらえないのか」「同性婚と新自由主義の相性のよさがまた証明」など、お決まりの批判も見られましたが、その後アメリカも同性婚が合法化され、同性配偶者をめぐる対応の内外格差は開く一方でした。それで近年は、在留資格のなかに「特定活動」という、「法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動」という大変裁量の広い在留資格があるのですが、同性配偶者にこれを認めて入国・滞在する例が出ています。

 また、こうした滞日同性カップルは、住民票でも世帯としてまとめてもらえ、妻・夫などの続柄の表記こそありませんが、世帯主に対して同性配偶者は「縁故者」と表示されます。

 (*なお、民間人の「特定活動」以外に、外交官の同性配偶者や、日本駐留の米軍人等の同性配偶者については、すでに国際条約などによって帯同が認められていました。ただ外国の首脳・閣僚や外交官が天皇にお会いする際、同性配偶者を同伴できるかは不明です)

 しかし、これはあくまで外国人ふうふの話であって、日本人と外国人が海外で同性婚している場合、日本人が帰国にあたって外国人の同性配偶者を帯同しようとしても、こうしたときに与えられる「日本人の配偶者等」という在留資格は出ません。外国人側も日本になんらかの仕事を得るとか留学するなど、自分で在留資格を得る必要があるのです。

 私は婚姻の平等化をめぐっては、国内の当事者としてあまり外圧ばかり頼みたくない、まずは自分たちが頑張りたい、と思うのですが、同性婚をめぐっては現に内外格差があり、その対象国も増える一方です。不謹慎なたとえで大変恐縮ですが、海溝プレートにじわじわ溜まったゆがみがいつか大地震をもたらすように、同性パートナーシップをめぐっても内外格差のゆがみが溜まり、外から大きな激震となってやってくるかもしれない、それは遠い将来ではないかもしれない、とも思うのです。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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1件 のコメント

友達ビザなんてあってもいいのでは?

カイカタ

こんな国際化の時代、同性同士、異性同士に関わらず、国境の垣根を越えて人と人が付き合うことは多々あると思います。留学や仕事以外で、そんなことを認め...

こんな国際化の時代、同性同士、異性同士に関わらず、国境の垣根を越えて人と人が付き合うことは多々あると思います。留学や仕事以外で、そんなことを認める制度ができたら素敵ですよね。

例えば、日本語が日本人と変わらないぐらいできて、日本人から友人と認められる外国人であれば、一定期間の友達ビザなんてあるといいかもしれません。

外国人をみて嫌悪する人がいますが、外国の人が多く日本に来るということは日本が世界中の様々な国々とお付き合いがあるという証でもあるのです。

でもって、他国で婚姻が認められている以上、日本で認めないのは変だと思いますね。というかフェアではないです。

日本の家族観なんて、いう人いますが、日本って江戸時代までは血縁より地縁で、養子も当たり前の社会だったと聞きます。でもって、性に関しては貞操概念は薄く、同性愛なんてのも大らかだったとか。曖昧な伝統論を持ち出すのはやめましょう。

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