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QOD 生と死を問う 第5部

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[QOD 生と死を問う]最期の場(下)慣れたホームで療養

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医療・介護協力、看取りまで

 

[QOD 生と死を問う]最期の場(下)慣れたホームで療養

スプーンで入居者の口に食事を運ぶ介護職員(奥)。やすらぎ荘は、医療が必要な人も最期まで暮らし続けられる「ついのすみか」だ(宮崎市で)

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 「最期まで住み慣れた場所で過ごしたい」と考える高齢者は多い。その希望をかなえ、自宅など生活の場で 看取みと りを行うための体制作りが、全国各地で始まっている。

 ほぼ寝たきりという90歳代の女性が、ベッドでまどろんでいる。向かいの居間で談笑する声が聞こえ、台所からは、昼食を調理する匂いが漂ってくる。

 宮崎市の「やすらぎ荘」は、高齢者向けの住まいとして、介護保険が始まる前年の1999年に開設された。現在は、住宅型有料老人ホームとして運営されており、一般住宅のようなデザインの建物で16人が生活している。

 それぞれの高齢者の診察などは、入居以前からのかかりつけ医や訪問看護師が訪れて行う。介護サービスは、主に併設の訪問介護事業所が担当するが、外部の事業所のヘルパーを利用することも可能だ。看護師の長友のり子ホーム長は、「医療や介護が必要になり、自宅では暮らせなくなった人が、最期までいられる家を作りたかった」と話す。

 同市では、病院ではなく、老人ホームなど暮らしの場で看取る取り組みが進んでいる。

 2004年に市内で開設された「かあさんの家」は、一般住宅を借りて少人数の高齢者を最期まで受け入れる「ホームホスピス」の草分けで、市民の要望を受け、現在は4か所まで増えた。医療・介護関係者の連携も進み、看護師や薬剤師、ケアマネジャーら300人が参加する「宮崎キュアケアネットワーク」は、職種の壁を越えて定期的に研修などを行っている。同ネットワーク代表世話人の牛谷義秀医師は、「連携により在宅療養の環境が整った結果、看取りに取り組む施設が増えてきた」と分析する。

 

 病院が、地域の在宅療養を積極的に支援する動きもある。

 11年の東日本大震災で大きな打撃を受けた宮城県の沿岸地域。かつては主に病院が高齢者の医療を担ってきたが、その多くが津波の被害に遭った。

 石巻市では、被災して閉鎖に追い込まれた市立病院が、仮設住宅と同じ敷地に診療所を開設。入院や通院ができない高齢者らを、医師や看護師の側が訪問して診療、看護にあたる体制を作った。市立病院は市街地に再建され、昨年9月から診療を開始しているが、在宅医療には引き続き力を注いでいる。

 愛知県豊田市も2年前、市が出資する病院で、訪問診療を開始した。

 自動車産業を中心に、工業が盛んで、15年の人口に占める高齢者の割合は20.8%(全国は26.6%)の「若い街」だ。「しかし、将来的には、高齢化は着実に進む。在宅医療を充実させていきたい」と、市の担当者は話す。

 病院偏重を見直そうと、住民に働きかける自治体もある。

 病院で亡くなる人の割合が高い愛知県蒲郡市は、昨年9月、在宅医療をテーマとした市民向けシンポジウムを初めて開催した。担当者は「何かあれば市民病院へ、という意識が根強い。医療や介護を受けながら、自宅で暮らし続けることも可能だと知ってもらいたい」としている。

生活全体支える体制、病院や自治体連携を

 

 自宅などでの看取りに詳しい国立長寿医療研究センター、三浦久幸・在宅連携医療部長の話 自宅での看取りを望む人は多いが、必要な医療、介護が受けられなければ自宅や施設などの暮らしの場で療養を続けるのは困難だ。開業医の高齢化は全国的に進んでおり、これからは、病院にも在宅医療を支えてもらう必要がある。また、長期療養をするには、医療だけでなく生活全体を支える体制も求められ、医療、介護、福祉に関わるさまざまな職種が連携することが大切だ。そのために自治体が果たすべき役割も大きい。

 ◎QOD=Quality of Death(Dying) 「死の質」の意味。

 (飯田祐子、小沼聖実)

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