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[認知症のはてな](12)頭を使う運動が有効

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[認知症のはてな](12)頭を使う運動が有効

コグニサイズに取り組む高齢者ら。間違えても、笑ったり励まし合ったりと明るい雰囲気だ(東京都世田谷区の「予防のむらもとランド」で)

 認知症を確実に予防する方法はまだ見つかっていないが、適度な運動やバランスの取れた食事は、認知機能の維持や改善に有効という。日々の生活に取り入れやすい形で、予防を目指す取り組みが広がっている。

 「1、2、3……。あれ、間違った」「次は右足よ、頑張って」。3月中旬、東京都世田谷区のデイサービスセンター「予防のむらもとランド」で、80~90歳代の男女10人が、床に置かれた4色のマス目を使った運動に取り組んでいた。「黄色のマスで拍手し、水色で右足をマスの外へ出す」といった指示に従いながら、マス目に沿って歩く。

 1年間続けているという的場生枝さん(86)は、認知機能検査で、記憶力が1年前より向上した。「ここでは声を出して、運動して、頭を使う。認知症にならないようにみんなでがんばりたい」と笑顔を見せる。

 この施設で取り組んでいるのは認知症予防の運動「コグニサイズ」だ。施設長の 志良堂しらどうしおり さんは「これを始めて、発語が増えた参加者もいる」と話す。

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  ■生活習慣病も予防

 コグニサイズは、英語のコグニション(認知)とエクササイズ(運動)を組み合わせた造語。歩行や足踏みなどの適度な有酸素運動と、計算やしりとりなど頭を使う課題を同時に行うもので、国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)が考案した。同センターの研究では、軽い物忘れが見られる軽度認知障害(MCI)の高齢者が、コグニサイズを含む運動を週1回以上、10か月間続けたところ、健康講座を受けただけの人に比べて、記憶力などの改善が見られたという。

 島田裕之・予防老年学研究部長は「脳の活性化には、難しくて、時々、間違えるぐらいがいい。楽しんで続けることが大切」と話す。

 日々の食生活も、認知症の予防に関係がある。

 同センターの里直行・分子基盤研究部長によると、マウスを使った実験では、認知症の原因となるたんぱく質を脳内に増やすと、糖尿病も悪化したという。九州大学が、福岡県久山町で、60歳以上の約1000人を対象に15年間行った追跡調査でも、糖尿病患者は一般の人に比べ、認知症のリスクが2倍だったことがわかっている。

 里部長は「糖尿病と認知症は、相互に病状を悪化させている可能性がある。脂肪を控えて食物繊維を多く取るなど、バランスの良い食事で糖尿病を防ぐことは、認知症予防にもつながる」と指摘する。

  ■歩く速度と関連

 歩く速度に着目し、認知症のリスクを測るスマートフォン用アプリもある。毎日の歩行速度や歩数が記録され、歩行速度が一定の水準以下に落ちると、認知症リスクが高まったと判断し、本人や家族に通知する。

 東京都健康長寿医療センターの大渕修一研究部長が監修し、IT企業のインフォデリバ(東京)が開発した。同センターが2011年、高齢者約900人の歩行速度を調べ4グループに分けたところ、最も速いグループには認知症が疑われる人はいなかったが、遅いグループになるほどそうした人の割合が増えていった。大渕部長は「認知機能の低下と歩行速度の低下は関係している。目安として、1分間の歩行距離が3か月で1メートル以上落ちると注意が必要」という。

 アプリは現在、太陽生命保険が保険加入者らに提供している。5月以降、一般の人もダウンロードして使えるようになる予定だ。

 ただ、どの研究者も口をそろえるのは、「認知症に万全の予防法はない」ということ。島田部長は「頭を使う活動や、運動、食生活の改善などに総合的に取り組むことが重要といえる」と話している。

 (小沼聖実)

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