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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第76話 お墓とお寺と「LGBT」と

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メディアの過剰な「LGBT押し」?

 最近、東京の寺院が「日本初LGBTも入れるお墓」とメディアで報じられているのを見かけて、「あ~あ、LGBTブームもここまで来たのか」と 暗澹(あんたん) たる気持ちでいました。 第74話 でも述べましたが、「LGBTに優しいトイレ」とか「LGBTフレンドリー○○」が最近インフレ気味で、ついにその波がお墓にまで来たのか、と。

 これまで世間が気づかなかった性的マイノリティーの存在と課題に気づき、「自分たちでもなにか取り組みたい」と動きはじめてくれたことはありがたいが、「こうして私たちはまた『特別の配慮が必要な方々』になっちゃうのね」と。

 いつも言うことですが、LGBTという特定の対象を (くく) り出して「ご配慮」するのではなく、性別・性的指向・性自認にかかわらず、一人ひとりが生き苦しい思いをしないで済む社会にすることが肝心で、非LGBTとされる人にも等しく関わる問題です。レインボーマークでもつけたお墓ができて、「LGBTのかたはこちらへ」と言われたらかなわんなあ、「地獄への道は善意で舗装されている」とはこれか、と思っていたのです。

 そうしたら、そのお寺、江戸川区にある 證大寺(しょうだいじ) のさんの広報のかたが、性的マイノリティーの老病死の課題に取り組んでいるということで、私たちパープル・ハンズをネットで尋ねあてて先日ご 挨拶(あいさつ) に見えたのにはちょっと驚きました。聞けば、事情は全然違っていたようです。

 同寺は「誰にも開かれたお寺」を目指してこれまでもいろいろな活動をするなかで、(確かに話題に触発された面もあるでしょうが)LGBTのかたにもお寺に 馴染(なじ) んでいただきたい、ということで、まずはある研修会社に依頼して寺内の研修に取り組んでみた。つぎに当事者に呼びかけて座談会を開催し、話題の一つとして同寺のお墓についても紹介した。また、同寺に 合祀(ごうし) 墓はあったが、最近、国籍・性別・法的関係など不問のユニット単位で利用できるお墓を作った(一定年限後、合祀墓へ合祀)――。実は現住職の夫人は韓国から迎えたそうで、国籍不問にも思い入れがあるそう。

 ところが、そういう寺側のスタンスが、取材したメディアの筆にかかると、「日本初LGBTも入れるお墓が登場」になったようなのです。昨今メディアの前のめりな「LGBT押し」がこんな記事になったのか……。どうも「LGBTのためのお墓」ばかりが目立ってしまい、ネット上では歓迎よりも「これってどうよ」という当事者の反応が多いと感じられました。はじめから、「みんなのお寺、みんなのお墓に、LGBTのかたもどうぞ」だと、印象はずいぶん違うんですけどね。

 実際、とかく「日本初」が強調される昨今のLGBT 界隈(かいわい) ですが、90年代のHIV登場時代から、ゲイや病に理解をもって受け入れてきた寺院やお墓もなくはないですし、都内の寺院にすでに合同墓を建立している当事者グループも実際あります。たぶん90年代以前にも、人のご縁と理解のなかで、性的マイノリティーの「葬」と「喪」はなんらかのかたちで営まれていたに違いありません。たしかにいまは新しい変化がつぎつぎ起こりつつありますが、安易に「日本初」を言うことなく、記録に残されなかった過去への想像力も忘れたくないと思っています。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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2件 のコメント

LGBTブームのその先

ぱんな

昨今、Twitterを眺めていますと、高校生のゲイが、家族に、クラスメイトにカミングアウトした、と報告しているリツイートがまわってきます。べつに...

昨今、Twitterを眺めていますと、高校生のゲイが、家族に、クラスメイトにカミングアウトした、と報告しているリツイートがまわってきます。べつに社会運動に興味はなさそうな、普通の子が、です。私のようなおっさん世代はこんなこと望めませんでしたね。

ブームは本当の理解か、なんて議論は、ナチュラルにカミングアウトする世代にとっては、どうでも良いものになっていくのかも知れません。

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死んだ後のことなんてどうでもいい

カイカタ

それは残された人が、どうしたいか考えればいいのではないでしょうか。 私は、死んだ後に、沖縄のとある海に散骨していただくことを望んでいます。そこっ...

それは残された人が、どうしたいか考えればいいのではないでしょうか。

私は、死んだ後に、沖縄のとある海に散骨していただくことを望んでいます。そこって、ニュースでよく話題になるところ。とてもきれいで神秘的な海です。漁業権は放棄されているので、散骨は可能だと思います。海の中で珊瑚、クマノミ、ジュゴンと戯れたいと思っています。また、滅多に目にすることはできませんが竜もいると思われます。

そのためにも、その海を破壊せず、保護活動に精を出している今日この頃です。

自分の墓など無くてもいいです。遺された人の記憶に少しでも残っていれば。

そういう選択肢を実現できるような世の中になってほしいです。

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