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QOD 生と死を問う 第5部

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[QOD 生と死を問う]最期の場(上)「自宅で」実現に地域差

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緊急時の診療体制など違い

 

[QOD 生と死を問う]最期の場(上)「自宅で」実現に地域差

訪問診療で患者宅を訪れ、「具合はどうですか」と話しかける千場純医師(左、神奈川県横須賀市で)

 住み慣れた場所で最期まで暮らしたいと願う人は多い。しかし、病院ではなく、自宅など生活の場で亡くなる人は全体的にまだ少なく、地域によって格差もある。自宅や老人ホームでの 看取みと りを行うケースが多い自治体では、どんな取り組みを進めているのだろうか。

 神奈川県横須賀市の住宅で、ベッドに横たわる女性(85)の顔を三輪医院の 千場ちば 純医師がのぞき込む。そばにいた女性の娘が、「昨日から熱が高くて」と心配そうに訴えた。

 女性は慢性呼吸不全で、この日は定期の訪問診療だった。検査の結果、インフルエンザと分かり、千場医師の指示で、後で薬局から薬が届けられた。

 同市は人口約42万人のうち、27.8%を65歳以上の高齢者が占める。厚生労働省の調べでは、2014年9月中に市内の診療所が訪問診療を行ったのは4336件。これは、人口と高齢化率がほぼ同水準の富山市の約2倍だ。診療所が看取りを行った数は、約3倍となっている。

 横須賀市では、約20年前から医師会が中心となり、看護師や介護職員らも参加する在宅医療の勉強会を開いて医療と介護の連携を進めてきた。14年度には双方の職員が円滑に協力できるよう、注意点をまとめた「よこすかエチケット集」を作成。市民向けには、最期まで自宅で暮らすためのガイドブックを作り、配布している。

 また、開業医らが地域ごとに協力し合い、夜間や休日にも緊急対応ができる体制を作った。その結果、24時間体制の在宅療養支援診療所が、11年から9か所増えて、44か所になった。市地域医療推進課の川名理恵子課長は「ケアマネジャーが安心して、自宅療養を勧められるようになった」と話す。

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 横須賀市同様、自宅や老人ホームで看取る体制を整えているのが、兵庫県豊岡市だ。人口は約8万6000人。14年9月中の診療所による看取りの件数は13件で、人口規模と高齢化率が似通った愛知県蒲郡市が1件にとどまっているのと比べると、その多さが分かる。看取りを行う診療所数は、蒲郡市が1か所なのに対し、豊岡市には12か所。市健康福祉部は「高齢で外来に来られなくなったら、医師が自宅に行くのが当たり前になっている」としている。

 

 内閣府の12年度調査では、自宅や老人ホームなどで最期を迎えたい人は6割超。しかし、それができるかどうかは住む自治体にもよる。

 自宅などでの看取りが少ない富山市と蒲郡市に共通するのは、「市内や近隣に病院が多く、入院しやすい」という点だ。

 富山市は、高齢者らが長期入院する病院のベッド(療養病床)が2559床あり、横須賀市の4倍超。蒲郡市では「市域が狭く、どこからでも短時間で市民病院に着くため、病院で亡くなるケースが多いのでは」と分析する。

 これに対し、横須賀市は病院が少ない上に偏在し「危機感から、在宅医療に力を注いできた」と、市医師会副会長を務める千場医師は説明する。同様に豊岡市も、市内に病院が少ないことから、訪問診療に力を入れてきた。その結果、自宅などでの看取りが可能な体制が作られてきたという。

 厚労省は病院のベッド数を減らす方針で、25年までに自宅などで療養する高齢者らがさらに約30万人増えるとみられる。病院頼みからの脱却と暮らしの場で看取る体制づくりは、今後どの地域でも求められる。

在宅療養支援診療所なし 市町村の3割

 

 全国で2014年に亡くなった人のうち、自宅で死亡したのは12.8%、老人ホームは5.8%で、8割が病院で最期を迎えていた。

 24時間体制で緊急対応を行う在宅療養支援診療所(在支診)は、制度が始まった06年の9434か所から、14年には1万4662か所まで増えている。しかし、その一方で1か所も在支診がない市町村、訪問看護ステーションのない市町村が、ともに全体の3割もある。在支診として届け出ていても、実際は訪問診療などに手が回らないところも少なくない。

 自宅や老人ホームなどの暮らしの場での看取りに取り組んでいる診療所は、在支診を含めた全体の4.7%、病院では5.6%にとどまっている。

 ◎QOD=Quality of Death(Dying) 「死の質」の意味。

 (飯田祐子、小沼聖実)

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