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宋美玄のママライフ実況中継

コラム

赤ちゃんの通る道を広げてあげましょう 生理的なお産とは?

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赤ちゃんの通る道を広げてあげましょう 生理的なお産とは?

原稿を書いていると抱っこをせがんで邪魔する息子です

 1歳3か月の息子は、どんどんアクティブになってきました。机の上や流し台には登らないと気が済まないし、棚を開けて中のものを出し、自分が入らないといけません。ご飯も自分で食べようとしてべちゃべちゃに汚し、お なか がいっぱいになるまでは食べ物を要求し続けます。娘よりもおとなしいかなと思っていたのですが、どうもそうではなさそう。楽しみですが、体力をますます消耗するんだろうなと覚悟しています。

 先週の 記事 はYahoo!ニュースにも取り上げられ、たくさんの方に読んでいただいたようです。自然出産を礼賛する一部の論調に疑問を持っておられた大勢の方から反響をいただきました。

仰向けのお産で起きる「回旋」

 今回は少し専門的になりますが、体の生理学に合わせた出産について掘り下げてお話しします。医師・助産師向けの教科書に載っている出産の生理学は仰向けのお産で、骨盤の関節は動かないという前提で書かれています。それによると赤ちゃんが産道を下りてくる時にはまずあごを引き(第一 回旋かいせん )、横向きの頭を顔が通常下になるようにねじりながら産道を下がり(第二回旋)、首を反らせて顔を上げるようにしながらお母さんの外に出て(第三回旋)、体は横向きのまま肩を片方ずつ出します(第四回旋)。これは周産期医療従事者であれば、日常的に見かけるお産です。

 「回旋」と呼ばれるこれらの赤ちゃんの動きは、産婦さんが 仰向あおむ けで、脚をカエルのように開いた状態でお産をすると起こります。難しいかもしれませんが、仕組みは以下のようになっています。

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骨盤の構造

 赤ちゃんが出口に向かって進むと、まず体の深部にある下部腹横筋に頭を押されてあごを引き、第一回旋が起こります。仰向けで脚を外側に回すように開くと、左右の 坐骨ざこつ の間は狭くなり(逆に、脚を内側に回すように動かすと広がります)、仙骨(骨盤の骨)と腸骨の間にある仙腸関節は動く範囲が狭まり、スペースがないため、体は横にしたまま首だけの回旋が始まります。これが第二回旋です。

 赤ちゃんの頭が出口に近く、狭い骨盤峡部まで進むと、仰向けの場合、尾骨関節が動かせなくなり、また坐骨までの距離が短く、それ以上同じ方向には進めなくなって頭を上げるように動いて、頭が外に出ます。これが第三回旋で、その後片方ずつ肩を出して赤ちゃんは生まれます。最後が第四回旋です。

 要は、産婦さんが生理学的には不自然な格好で産むことで、赤ちゃんの通る道が狭まるために起こるのです。教科書には、「狭く曲がりくねった道を通り抜けるために」回旋が起こると書かれています。

 骨盤の関節が動くことのできる範囲を妨げない姿勢(四つん い、横向き、斜めうつ伏せ、仰向けでも工夫すればできます)の生理的なお産では、赤ちゃんの下降に伴って骨盤の関節が動いて産道が広がりまっすぐに進めるため、赤ちゃんはそのような動きをしなくてすみます。仰向けでなければ、仙骨が赤ちゃんの進む道を邪魔することもないのです。体の軸にそって下がって来た赤ちゃんの頭は、骨盤の左右にある腸骨を押して、仙骨と腸骨を結ぶ関節を動かし、骨盤は出口が広がるように開きます。そして、尾骨を押してお母さんの体の出口(陰裂)を広げ、そのまままっすぐ進んで生まれます。

体の持つ力を最大限に生かしたお産を!

 骨盤の関節が動くことや太ももの向きによって産道の広さが変わるという認識がなかった人は驚かれたかもしれません。メカニズムの一部を文字で記しただけでは分かりづらいかもしれませんが、骨盤の模型を使った説明や実際の出産の様子を動画で見ると一目瞭然です。助産師の教科書の中には、従来の仰向けのお産だけでなく、生理学に沿ったお産についての記述があるものも出てきました。

 理論上と臨床経験からではありますが、生理学的なお産の方がスムーズで母体の骨盤底筋のダメージが少なく、赤ちゃん自身のダメージも起こりにくいと考えます。

 分娩台での出産は良くない、自分の好きな姿勢で産むのがいいという人はいますが、その理由は「リラックスできない」「重力に反するのはいけない」ばかりで、それ以上掘り下げられたものを残念ながら見たことがありません。根拠が十分でないのに出産の優劣をつけたり安全性の劣る施設でのお産を礼賛したりする考えには賛同できません。産む場所や医療介入の有無よりも、出産の生理学がもっと理解され、妊婦さんたちが体の持つ力を最大限に生かしたお産ができるようになるといいと思います。

 参考図書:『理論にもとづくペリネのケア: 適切な理解と実践で骨盤底筋群を守る! 』(メディカ出版)

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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6件 のコメント

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分かりやすいです!

こぶたちゃん

なぜ仰向けより他の体位の方が産婦さんが楽なのか、感覚でしか説明できなかったことが理にかなっていると分かり、嬉しくなりました。 仰向けもフリースタ...

なぜ仰向けより他の体位の方が産婦さんが楽なのか、感覚でしか説明できなかったことが理にかなっていると分かり、嬉しくなりました。
仰向けもフリースタイルも両方の出産経験がありますが、フリースタイルの方が段違いにお産が楽でした。ただ、何かあった時に医師は困るのかな…と思うと、バースプランに書くのもすごく気を使います。
昔ニューアクティブバースという本を読んだことがあるのですが、もう古いので最新の医学とは違う面もあるでしょうけど、今回のコラムを読んで、久しぶりにまた読んでみたくなりました。

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育児雑誌や学校での教育で教えるべき理論

miyagikenjin

赤ちゃんが母体の子宮から産道を通って産まれる生物学的な仕組み、は正直言うと医療専門者でないとわからない。 宋医師と同い年の私世代では、学校ではま...

赤ちゃんが母体の子宮から産道を通って産まれる生物学的な仕組み、は正直言うと医療専門者でないとわからない。

宋医師と同い年の私世代では、学校ではまず習わなかった。(宋医師は中高と女子校でしたが習いましたか?)
小学校で性教育元年とされた92年に男女一緒に学ぶようになったが、この頃小学4・5年(81.4~83.3生れ)世代でも学んでいないと思う。(82年1月生まれの綾野剛や11月生まれの倖田來未が『最初の性教育世代』にあたる)

綾野剛さんが主演した「コウノドリ」でもドラマでは詳しくCGで説明してなかったし、漫画でもわかりやすくは描いていなかったように思う。

学校での保健体育や生物の授業では習わないし、教科書にも載ってない。
書店で売っている育児雑誌には、どのくらい書かれているのか?(さすがに男は立ち読みしづらい)

出産時の仰向けは固定観念なのでしょうか?
昔のお産は天井から縄をつるして、出産でいきむ時は縄をつかむ。
日本人の骨格・筋肉と白人や黒人の骨格・筋肉、体の動かし方は違うというが…。

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教科書は仰向けが前提だったのですね

みみ

なにかピンポイントのような姿勢があるのかと想像していましたら、 仰向け以外で条件がそろえば、回旋しなくても大丈夫なのですね。 よいサポートを受け...

なにかピンポイントのような姿勢があるのかと想像していましたら、
仰向け以外で条件がそろえば、回旋しなくても大丈夫なのですね。
よいサポートを受けられる妊婦さんが増えるといいですね。

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