コウノドリ先生 いのちの話
からだコラム
[コウノドリ先生 いのちの話]多様性を愛する能力
ジャズスタンダードの名曲「マイ・ファニー・バレンタイン」。歌詞の前半で、自分の恋人をさんざんこき下ろします。「あなたのルックスは笑えるし、写真向きではないよね。ギリシャ彫刻より劣るし、口元だってイマイチ」と。
おなかの中で見つかる赤ちゃんの病気には色々なものがあります。駆け出しの産科医の頃、こんなことがありました。その赤ちゃんは妊娠早期で異常を指摘され、私の所に紹介になりました。重い胸郭の低形成、頭部の変形・萎縮……。妊娠を続けても助かる望みは極めて低いと考えられ、ご両親に告げたところ、妊娠中絶を決断されました。
「赤ちゃんには会いたくない」。死産の後、ずっと泣いているお母さんに、先に赤ちゃんと面会したお父さんはこう言いました。「僕より少し不細工なだけだ」。その言葉のおかげで、赤ちゃんはお母さんに抱っこしてもらえました。
この時、ハッと気がついたんです。医学的な事実の説明は間違っていなかったけれど、そのせいでお母さんは「おなかの中に異質なものがいる」と受け止めてしまったということを。お父さんの一言に、どれだけ助けられたことでしょう。
胎児期に見つかる病気は、診断や治療が難しいものが大半です。議論のある出生前診断とも関わってきます。このケースではお父さんが「この子の病気も多様性の一つ」と解釈してくれたことで、お母さんと赤ちゃん、そして多分、私も救われたのだと思います。
私たちには多様性を愛する能力があるはずです。家族ならばなおさら。先のジャズの歌詞は、後半で恋人にこう呼びかけます。「でも、あなたは私のお気に入りの芸術作品。だから髪の毛の1本も変わらないで。そのままでいてください」
(りんくう総合医療センター産婦人科部長 荻田和秀)
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