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福島からの避難者差別…誤解が生む中傷・いじめ
現状理解へ東京で学習会
福島第一原発事故の影響で、全国に避難した福島の人たちへの心ない中傷やいじめがやまない。東日本大震災から間もなく6年。いまだに、このような「差別」が横行するのはなぜか。背景を識者に聞いた。
福島県南相馬市で学習塾を経営する番場さち子さん(56)は2014年10月、東京・駒場のマンションの一室に「 番來舎 」を開設した。福島県から原発事故に伴って引っ越した人や県出身者が、悩みをはき出せる拠点だ。子どもたちの学習支援も行う。
東京で3年半近く、30か所以上の不動産物件を見て回ったが契約を断られ続けた。業者を通じて大家に聞くと「福島の人が借りると価値が落ちる」と言われたこともあったという。
番場さんは「大人の私でもしばらく立ち直れないほど傷ついた。福島出身と言い出せない若者も多い」と悔しそうに話す。
福島県から全国に避難した人たちへのひどい対応が全国で相次ぐ。いじめや嫌がらせだけでない。「放射能がうつる」「福島の農産物は危険」などと、誤った情報が広まってしまった。
「原発事故や放射能汚染で故郷に住めなくなる状況が特殊過ぎて、被害者への共感が生まれにくいことが問題の原因の一つになっている」と、「悪意の心理学」(中公新書)の著書がある愛知学院大学教授の岡本真一郎さん(64)は言う。
子どもは、福島を見下すような大人の言動を真に受け、学校などで広めてしまう。「大人の対応がいじめを拡大させる」と岡本さんは指摘する。
よく知らない物や人を怖がる反応は誰にでもある。市民が福島の状況を正しく理解していないことが問題だと考える番場さんは、番來舎で有識者を招いた学習会を続けている。
2月下旬の学習会では、福島県いわき市出身で立命館大学准教授の社会学者、開沼博さん(32)と、同県南相馬市立総合病院などに勤務する内科医の坪倉正治さん(35)が、福島の放射線量や住民の甲状腺の検査などの実態について解説した。世界中で多くの核実験が行われた55年ほど前は、日本人の内部 被曝 量が原発事故の影響を受けた福島県民よりずっと高かったことを説明し、「住民が暮らす現在の福島県の放射線量は、健康には影響が出ないレベル」と強調した。
話題は福島出身者への差別やいじめにも及んだ。
開沼さんは「原発事故後の福島は『風評被害』に遭っていると表現されてきたが、これは『経済的損失』か『差別』に置き換えられる。国民全体があいまいな言葉で福島への対応に問題がないようなふりをし、ごまかしてきたことが根底にある」と言う。
最近も、仕事で福島に同行する予定の人から、「福島に行っても大丈夫なんでしょうか」と、冗談とも本気ともつかない口調で問われたことがあったという。
「当人に差別する意図はなくても、明らかな差別が横行している。差別は決して許されない。福島への差別が実際にあることを一人ひとりが認め、意識してなくしていくことが必要な段階に入っている」と開沼さんは話す。
◆メモ 番場さんは、南相馬で子育てなどに悩む母親らを支援しようと、震災後に市民団体「ベテランママの会」を結成。放射線についての正しい知識を持とうと、小冊子「福島県南相馬発 坪倉正治先生のよくわかる放射線教室」を発行した。インターネットで検索し、無料でダウンロードできる。(石塚人生)
(2017年3月8日 読売新聞夕刊掲載)
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