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自分の命綱を握るのは、どこまでも自分

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自分の命綱を握るのは、どこまでも自分

皆様のおかげで明るい光が射してきました。

 前稿で「新たに光が () し込む動きも出ている」と書きましたが、昨年9月から仙台市に求め続けていた終日24時間(重度訪問介護・毎月799.5時間/入浴・移動・通院時の2人制を含む)の介護支給が決まりました。この場で読者の皆さんに明るい報告ができて (うれ) しく思います。初めは小さく射し込んでいた光が急速に大きな光になって、満額回答での決定になったのも、多くの皆さんからの応援を頂いたおかげです。本当にありがとうございました。

 市の障害者支援課の決断にも感謝したいと思います。窓口である区の理不尽な初期対応から一転、私の切実な現状に本気で向き合って、主治医からの意見の聴き取り、本人と両親への再度の訪問調査も行ったうえで審査会を開き、判断をいただきました。

 この最終結果は、けっして私の声だけでは出なかったと思います。共に思いを共有した相談支援事業所の相談員、主治医、障害者支援に理解のある市議、社会問題として関心を持っている記者、介護保障に詳しい支援者や弁護士など、多方面の熱意ある仕事がありました。力を集めて行政に対し声を出し続けることで無理解の壁を越えられたと感じています。それと同時に仙台市の障害福祉行政が自ら問題を認識して適切な方針転換ができる勇気を持っていたことは、市民として嬉しく思いました。

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 私が心折れずに諦めないでいることができたのは、多くの方からの助言や励ましに支えられたからです。

 昨年12月に、区から信じがたいマイナス回答を受けた衝撃で、体調を崩すほど気持ちが落ち込んでいたとき。

 「行政に命綱の介護支給を握られているから、どうしても障害者は弱い立場に追い込まれてしまうんだよ……」

 と、この連載の担当編集者・岩永さんに弱音を漏らしたことがありました。

 すると彼女はひとまずその弱音を受け取ってから、言いました。

 「それは違いますよ。行政は市民によってその力を与えられている存在なんです。誰も岩崎さんの大切な命綱を握ることはできない」

 私はこの言葉には、無力にも思える弱さを、生き抜く強さに転じる光があると感じました。

 「自分の命綱を握るのは、どこまでも自分である」

 これを建前にしてしまうか、 (ひる) まずに声を上げる勇気を振り絞る足場にするかは、紙一重の違いですが自分次第です。

 絶望の沼に引き込まれていた私に、「しかたない」「どうせ通らない」「あきらめるしかない」という気持ちを振り払う力を送ってくれた岩永さんに感謝しています。

一人では動かせない。多方面から働きかける

 無理解の分厚い壁を動かすには、多方面から働きかける必要があると思ったので、さっそく動きました。

 まずは「介護保障を考える弁護士と障害者の会 全国ネット」(以下、「介護保障ネット」)に相談の連絡をしました。

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介護保障ネットと地元の弁護士さんと打ち合わせ

 「介護保障ネット」は、障害者・難病患者が地域で自立して生きていくのに必要なヘルパー制度利用時間(介護支給量)が十分に保障されるための手助けをしている団体です。介護保障分野に精通したメンバー弁護士がアドバイザーとなり、支援を受任した地元弁護士が代理人になって、市町村への介護支給申請手続きを進める方式で、これまでに全国各地で必要のある人に、24時間介護支給を実現しています。

 昨年11月に、同会の活動を紹介した『支援を得てわたしらしく生きる!~24時間ヘルパー介護を実現させる障害者・難病者・弁護士たち』(山吹書店)を読んでいて、もし自分の申請が難航して困ったときは相談しようと思っていたところ、各方面の支援者や連載での情報提供に応えてくださった複数の読者さんからも、専門家の支援を受けた方がいいと相談を勧められたこともよいタイミングだったと思います。

 弁護士を頼むというと二の足を踏む向きもあると思いますが、市町村に介護支給申請を出すのに、自分の介護必要性を明示して理解が得られるように、綿密で説得力のある根拠書類をしっかりと用意したり、一緒に詳しい説明をするなどの手伝いをお願いするのは、強面(こわもて) に行政と争うためではありません。障害者の行政との介護支給量交渉に関わることは、介護・福祉職に相談するのが一般的です。しかし、行政の無理解な対応を受けて困った時には、介護保障の支援に取り組む弁護士に相談する選択肢もあることを知ってほしいと思います。私は相談してよかったと感じています。 もし読者の皆さんでご自身や家族、知り合いに介護支給量が十分に得られず困っている方、交渉が難航している方がいたら、ぜひ相談してみられてください。メールや電話での初期相談も受け付けているので会のホームページをご覧ください。

 次に、障害者福祉に理解がある市議会議員に、政治の方面から市の障害者支援のあり方を当事者の側に立ったものに変えていく力添えをお願いしました。広く市政の問題として対応を改善していく働きかけです。友人からの (すす) めもあり、相談しました。面会して話し合うとすぐに課題を認識して尽力を約束してくれました。その後、議会の健康福祉委員長も務める議員の立場から、市の障害者支援課長と率直に話し合いをし、市として改善に取り組むという課長の明言も得てくれました。

 1月23日に、区の職員が主治医の川島孝一郎先生(仙台往診クリニック院長)に、あらためて私の置かれている状況を確認しに行きました。支給決定するにあたって考慮すべき事項を調査する一環なので、とても大事な聴き取りです。

 気管切開での人工呼吸器使用者は、気管に穴が開いているので (たん) の吸引はしやすい。しかし私のような鼻マスクでの呼吸器使用者は、痰が出たとき吸引の難度は上がります。口からだとカテーテルが途中に引っかかりやすく簡単には引けない。病気の重症度は気管切開での呼吸器使用者より軽いかもしれませんが、在宅生活の日常における生命の危険度から言えば、鼻マスクでの呼吸器使用者のほうが高い側面もあるのです。その事実をふくめ2時間ほど、呼吸器使用者の生活実態を丹念に説明して、意見を言っていただいたと聞いていました。聴き取りをした区の職員もその内容について、正確な理解を深めたのではないかと思います。

自分の命綱を賭け

声を上げる

あなたには

届いたのかもしれない

私は 見ています

目の前の障害者を個別具体的に見る

 介護保障ネットの弁護士さん、地元の弁護士さんと集まって話し合いをしたとき、教わった話があります。

 介護支給にあたって市町村が定めている支給決定基準はあくまで目安にしかすぎない。目の前に介護支給を必要とする障害者がいて申請を受けたのなら、基準に合うかどうかに関わらず、本人、家族、主治医などの医療者、介護や福祉の支援者らから細かく聴き取りをする調査を行って審査会にかけて、個別具体的に支給量が決まるというのが本来のあり方だというのです。

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専門家の視点で目から鱗のアドバイスをいただきました

 私はこの話を聞いて目から (うろこ) が落ちる思いでした。

 前々回(理不尽に対して、黙って泣き寝入りはしません)に紹介した平成18年に市が出した重度訪問介護における「見守り」と「家電製品の操作」の考え方を示した文書も、目安。気管切開で痰吸引の頻回な人工呼吸器使用者を24時間介護支給の対象者としてきたのも、目安ということになります。

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 支給の適否や量は、目安に合うか合わないかではなく、あくまで個別具体的に本人の状況を見て判断するものと知っておくのは、介護支給申請を行うにあたって役に立つと思います。実態に合わない基準の改善を求めるのも大事ですが、この本筋の話を見失わないようにしなくてはいけません。

 2月9日に、市と区の障害者支援担当者による再度の訪問調査がありました。

 初回に来た職員とは別の方です。行政からは責任ある立場の方が3人と、保健師が来訪しました。相談支援の及川さんが同席のもと、私の方は、しっかりと説明をして理解を得られるように、支援を受任した地元弁護士さん2人がサポートし、介護保障ネットの弁護士さんもスカイプ(インターネット電話)で音声参加しました。

 2回目の訪問調査で、あらためて強調したのは、

・両親による介護は健康状態からして100%不可能であり、本人と両親双方にとって事故が起こりかねない危険な状態にあること。

・人工呼吸器を安全に使用するため、健康と生活の維持に随時の細かい体位調整が不可欠なため、昼夜を問わず常時介護が必要であること。

・介護者不在の時間が生じる細切れ介護では安全が保てないこと。

 です。保健師がメインになって熱心に聴き取りを行ってくれましたが、その最後に、少し改まった口調で聞かれたことがあります。

 「岩崎さんにとって、自立した生活というのはどういうことだと思われますか」

 役人として調査する質問ではなく、人間としての (じつ) から問いかけている感じがしました。

 「他人任せではなく生きていきたい。周りの環境がこうだから、仕方ないからこう生きるというのではなく、自分で考えて自分で決めていく生活のことだと思っています」と私が答えるのを、市と区の同席者が真剣な面持ちで聞いてくれた様子が印象に残っています。

 行政の職員は職務上、感情的な側面を抑制して仕事に当たらなくてはならない時もあると思います。公務の立場は崩さないとしても、しかし、こうした血の通った言葉をもって障害を持つ市民とその家族に向き合い、そして考えて頂けたら、仙台市も人に温かい街になっていくのではないでしょうか。

 市が発行している広報誌『仙台市政だより』2017年2月号に「障害への理解を深めよう―誰もが心豊かに暮らせるまちへ」と市民に呼びかける記事が載っていましたが、発信元の仙台市、とりわけ障害者福祉行政を担われている職員の皆さんには、ぜひ、ご自身のこととして考えて仕事をしていただきたいと思います。

どこに住んでいても、顔を上げて生きられるように

 今回のことは、私だけの問題ではないと感じています。生きるために必要な介護を求めることでさえも、市町村の現状把握の不足、無理解から支給認定がされず、命の危険すら感じながら苦しい生活を余儀なくされている障害者が全国にたくさんいます。いつ自分が倒れてもおかしくない限界を超えた介護を強いられている家族もたくさんいます。どこに住んでいても、どんな病気や障害で全身不自由な体になった人でも、うつむかないで顔を上げて生きられるように。必要な介護支給を得られるようにしていきたいと切に願います。

 現在、4月から重度訪問介護799.5時間に切り替える予定で複数の訪問介護事業所、相談支援の及川さんと準備を進めています。今週から新しく加わる担当ヘルパーさんの研修も始まりました。自立生活の実現には、まだ先にハードな行程がいくつもありますが、一つ一つ解決して乗り切っていきたいと思います。

 航海日誌は、今日も続きます。

命綱を握るのは

どこまでも自分である

無力を転じる

生き抜く力

明け渡さない

志があるなら

負けることはない

あなたから

僕にも交わされた

勇気の盃

写真:岩永直子

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 読者の皆さんに情報提供のご協力をお願いしたいと思います。

 ご自身かご家族で、終日24時間(もしくはそれに近い長時間)ヘルパー介助を得て生活している方はいらっしゃいますか。担当編集者のメールアドレス( e-yomidr@yomiuri.com )に、ヘルパー確保をどのように行っているか、差し支えない範囲で教えてください。障害の状態とお住まいの自治体名も記していただけるとありがたいです。よろしくお願いします。

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