科学
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レーザーで角膜削り、想定外の遠視になったら「生まれ変わったと思って…」
エキシマレーザーという特殊なレーザーで、角膜の表層を正確に削り取る治療的角膜切除(PTK)は、すでに保険適用になっています。
どんな病気の場合、この治療をするのか、適応疾患をあげてみましょう。
角膜ジストロフィーや角膜変性は、生まれつき、もしくは後天的に角膜に混濁部分が出現する病気で、多くの種類があります。このうち、混濁部分が多くなって視力が低下した場合がひとつの適応です。感染や外傷後に比較的、表層の混濁が残った場合も、よい適応になります。
通常は、感染などの病気が治療によって落ち着いてから行いますが、アカントアメーバ角膜感染症では、病勢が強いときにこそ、この治療法が用いられます。
アカントアメーバは土中、水中、どこにでも分布するアメーバの一種です。普通は病原性は乏しいのですが、時に、角膜の小さな傷などから侵入して増殖し、病原性を発揮することがあります。薬物治療は難しく、角膜深層に侵入したアメーバを取り除くために角膜を削る治療が有効です。
術者の勘と技術で削り、しかも1度では終わらず何度も行う場合もあります。この削る作業をレーザーでするのがPTKということになります。
削れば削るほど角膜は薄くなり、角膜のカーブが減り、つまり凸レンズの役割をしていた角膜の屈折力が低下するため、遠視化します。削った量で遠視化する度合いが異なりますが、1回の手術で1~2D(Dはジオプトリー)ほど遠視になるようです。
先日、2度目のPTKを受けた角膜ジストロフィーの50代の女性が、術後から強い目の疲労感、違和感を自覚し、仕事もできない状態だと紹介されてきました。
「視力検査では良好ですが、人の目を入れられたような状態です」と違和感を説明します。
この方はそれまでは軽い近視だったものが、術後、遠視になってしまったのです。
多くの人は、病原体や混濁が取り除かれ、視力が保たれた結果として出てくる遠視化に適応するものです。しかし、本例では術前の想定以上に遠視化してしまったのかもしれません。また、もともと近視だった人が遠視になると、それまで慣れてきた目の使い方が大きく変わり、とくに1メートル以内の見え方が快適でなくなります。
ほとんど混濁のない水晶体を取り除き、入れる眼内レンズを調整すれば近視に戻せるからと、手術治療を提案されているそうですが、本人は
確かに、理論上は近視に戻せるのですが、どうしても数値には表せない実感というものがあります。
私の意見は以下のようなものでした。
「生まれつきのこの程度の遠視の人は、世の中にたくさんいます。生まれつきだから自然に適応して、不自由なく暮らしているのです。あなたも、まずは生まれ変わったのだと思って、時間をかけて適応してみませんか」
本人も違和感の原因にようやく納得し、そうしてみるということになったのでした。
(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)
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