ヨミドクターセミナー「ロコモ予防!健康な足腰をつくる運動の効果と方法」
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ロコモ予防! 健康な足腰をつくる運動の効果と方法(1)ロコモの原因とは?
読売新聞の医療・健康・介護サイト「ヨミドクター」のセミナーが2月9日、東京・大手町の読売新聞東京本社内で開かれました。今回のテーマは「ロコモ予防! 健康な足腰をつくる運動の効果と方法」です。
講師:伊奈病院(埼玉県伊奈町)整形外科部長 石橋英明 さん
1988年、東大医学部卒。東京都老人医療センター(現・東京都健康長寿医療センター)整形外科などを経て、2004年から現職。専門は高齢者の運動器疾患、特に骨 粗鬆 症と関節疾患、人工関節手術。日本整形外科学会専門医、ロコモチャレンジ!推進協議会委員、日本骨粗鬆症学会評議員、NPO法人 高齢者運動器疾患研究所代表理事。
聞き手:岩永直子・ヨミドクター編集長
高齢化が運動機能の低下を招く
今日は、主にロコモティブシンドロームについてお話をさせていただきたいと思います。
今の高齢者は何歳まで生きるのでしょうか。
平均寿命については皆さんご存じの通り、生まれたばかりの赤ちゃんが、平均で何歳まで生きるかを統計学的に示したものです。日本は男性80.5歳で世界3位、女性86.8歳で世界1位(2014年)ですので、本当に長寿国です。(※2015年の日本人の平均寿命は男性80.79歳で世界4位、女性87.05歳で世界2位)
この表(下図)は、平成26年度の「簡易性生命表」といって日本人の寿命の長さを示したものです。一番上の0歳のところが「平均寿命」ということになり、男性80.5歳、女性86. 8歳で世界でトップクラスです。そして、「平均余命」になるとさらに長くなります。
ただ、「平均余命」になると違ってきます。残念ながら早く亡くなる人もいる一方、60代の方、70代の方というのはその年齢まで生き延びてきた。となると、余命はもうちょっと長くなります。例えば65歳の女性の場合、平均余命は24.2年で、亡くなる89.2歳まで平均でも生きることになります。75歳の方になるとさらに長生きになり、平均余命は15.6年で90.6歳。これが平均ですので、本当に長寿ですね。
平均寿命で考えると、85歳の方はあと1年半で86.8歳に到達することになります。来年のお正月はいいけれども、再来年は……みたいな印象になってしまいますが、実際は平均まではあと8回もお正月がある。8.4年ということになります。
つまり、65歳以上の高齢者にとっては、ほぼ90歳が目安の寿命ということです。
平均寿命では、男性は女性よりも6歳強短い。ただし、80歳まで生きている方を比較するとその差は3歳弱です。85歳になると女性と男性の違いは2.2歳。つまり、ある程度、長生きした男性は、女性と同じ長寿なのです。「男はどうせ短命だから」「平均寿命80歳だから」と思っていると大間違いで、命にかかわる大病をしなければ女性同様に長く生きることになります。
実は、本日のテーマは、「長く生きる」ことではなく、「長く生きても大丈夫なように、しっかりとした足腰を準備する」ことです。そう思って聞いてください。
自分でしっかり動けなくなる――、つまり要支援・要介護の状態になることですが、一番の要因は何だと思いますか。
ご存じの方もいらっしゃいますが、「脳卒中」です。脳梗塞や脳出血などで特に男性に多く発症します。男性の場合、要支援・要介護の4人に1人は脳卒中が原因です。血圧や糖尿病(血糖値)、コレステロール値などに気をつけることで脳卒中になるリスクは減ります。
次に多いのは「認知症」。これは男女ともに多いですね。さらに、体がだんだん弱っていく「衰弱」と続いていきます。
この後に「転倒による骨折」、さらに膝の痛みなどの「関節疾患」が続きます。
今日のテーマである運動器、つまり足腰ですが、実は女性の方に問題が起きやすい。「骨折」「関節疾患」の二つを合わせると、女性が寝たきりになる原因の29.5%を占めます。これは足腰を強く保つことで避けることができます。
岩永 なぜ、女性に多いのでしょうか?
石橋 20歳の段階で男女を比べると、女性のほうが骨も筋肉も弱い。つまり男性はもともと骨や筋肉が強い。それに加え、女性は閉経後に骨が弱っていきます。さらに、女性は骨を支える筋肉も弱いので、どうしても骨や関節の問題は起きやすくなります。
岩永 なるほど。ぜひ女性は頑張りましょう。
石橋 頑張ってください。
加齢に加え、骨、筋肉の衰えがロコモの原因に
さて、現在のように平均でも90歳ぐらいまで生きるようになると、どうしても人生の後半で運動器が弱くなり、それが要支援や要介護の原因となるケースが増えてきます。特に足のつけ根の 大腿 骨の骨折によって要介護になる方が大勢いらっしゃいます。
私は病院で日々、普通に整形外科医として診療、手術をしています。私の病院でも足のつけ根の骨折は多く、毎週のようにこの骨折の手術があります。最近は、90代の患者さんが多いことに驚きます。骨折は何歳になっても痛いし、つらいです。それに加えて要介護の原因になるわけですから、予防はしておきたい。80代、90代からの骨折予防も重要ですが、さすがに限界があります。早いうちから骨や筋肉などの運動器を健康に保つことが大切なのです。
さて「ロコモティブシンドローム」です。
これは、「運動器」「運動の」を意味する「ロコモティブ」に、「症候群」の「シンドローム」を合わせた言葉です。運動器、つまり足腰の不具合のために、立ったり、座ったり、歩いたり、階段を上り下りしたりなどが難しくなる状態をひっくるめて、そう呼んでいます。平たく言うと、「年齢とともに足腰が弱くなり、放っておくと寝たきりや要介護になりやすくなりますよ」ということです。「ロコモ」と簡単に呼んでいただいて構いません。
ロコモがどう進んでいくかを説明します。
運動器には、主に体を支える「骨」、それを動かす「関節の軟骨」、背骨の間のクッションの「椎間板」、さらに「神経」「筋肉」などがあり、それらが年齢とともに減ったり、弱ったりしていきます。すると、筋力やバランス能力が弱くなったり、痛みが出たりしますし、骨粗鬆症や変形性関節症などの運動器の病気が増え、そのまま進むと十分に歩けなくなって、要支援・要介護になっていきます。運動器の 脆弱 化を意味するロコモはこうして進んでいきます。
実は、加齢だけでなく、持って生まれたものも大きく影響します。骨や筋肉の強さは6~7割が遺伝的に決まっていると言われています。運動や栄養にしっかり目配りして生活してきたのに、70歳でいきなり背骨がつぶれる圧迫骨折を起こす人も少なくありません。
気をつけているのにそうなるのは悔しいですよね。外来の患者さんには「せっかく気をつけて生活してきたのに!」などと悔しがる方もいます。
骨の強さは調べればわかりますので、骨粗鬆症が心配な方、あるいは60代、70代で一度も骨について調べたことがない方は、ぜひ検診などで相談してみてください。
余談ですが、いきなり「講演会で話を聞いたから検査に来ました」と言って、病院に行かないでください。「腰が痛い」「最近、急に背中が丸くなった」など、何らかの症状がある場合に医療機関にかかるようにしましょう。検査だけを希望する場合は、骨粗鬆症の検診や人間ドックを利用することになります。
加齢に伴って、骨粗鬆症とか変形性関節症とかの病気が出てくると同時に、筋力も弱ってきます。
まず問題になるのがバランスの低下です。バランスというのは、姿勢を上手に制御したり、コントロールしたりする能力のことをいいます。スムーズな歩行や片足でじっと立っていられるかなどもバランス能力が関連します。
バランスが悪くなってくると、歩く速度も遅くなってきます。歩行は両足と片足立ちの繰り返しですが、片足で立ったときのバランスが悪いと歩くときに不安定になるので、どうしても歩行速度がゆっくりになっていきます。友達と歩いているときなどに、以前は普通に並んで歩けていたのに、だんだん遅れてしまうようになったりするのは、バランスが悪くなってきている兆候です。
岩永 最近は「サルコペニア」という言葉をよく聞くようになりました。また高齢者の運動機能については、「フレイル」という言葉も一般的になりつつあります。これらとロコモの違いを教えていただけますか。
石橋 わかりました。まずサルコペニアからご説明します。サルコは「筋肉」、ペニアは「減少」を意味します。つまり、筋肉減少症です。主に加齢が原因で、年齢とともに筋肉が衰え、筋肉の量が減ってくることを言います。人間の筋肉は40歳ぐらいから毎年0.5~1%ずつ減っていきます。したがって、80歳になると若い頃と比べて2~4割ぐらい減っていることになります。減り方が早い人やゆっくりの人など個人差はありますが、「運動習慣がない」「栄養摂取が少ない」などもその原因になります。
一方、「フレイル」は、英語で「虚弱」を意味する「frailty」から作られた言葉で、加齢とともに全体的に弱ってくることを示します。運動機能の低下も含みますし、「体重が落ち、やつれてきた」「認知機能が落ちてきた」「あまり外出しなくなった」など、肉体面だけではなく、精神面や社会性も含め、弱った高齢者の状態を示すのがフレイルです。
簡単にまとめると、筋肉が弱ってくるサルコペニア、足腰が弱ってくるロコモ、いろいろなものが弱ってくるフレイル、というわけです。
岩永 なるほど。ありがとうございます。よくわかりました。
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