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路上生活者、自立の支援…まず心身の安らぐ場所へ

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民間団体が個室用意、夜回り

 ホームレス状態の人の精神と生活の向上を支援する民間団体の活動「東京プロジェクト」が来月、設立から7年を迎える。代表医師で精神科医の森川すいめいさん(43)に同行し、理念を尋ねた。

路上生活者、自立の支援…まず心身の安らぐ場所へ

夜回り前に打ち合わせをする精神科医の森川さん(右から3人目)とボランティアたち。活動の正式名称は昨年、「ハウジングファースト東京プロジェクト」になった(東京都豊島区で)=橘薫撮影

 2月の水曜日午後9時半。東京の繁華街、池袋の公園から、15人のメンバーが毎週の「夜回り」に出発した。池袋駅構内などで約100人の路上生活者におにぎりを配り、声をかける。

 医療班の森川さんが、顔見知りの年配の男性に駆け寄った。男性の目が充血している。急性緑内障や他の病気がないか確認する。帰路につく群衆よりも歩く速度が遅い人、壁にもたれる表情がうつろな人にも目を配る。爪や靴の汚れをチェックする。

 東京プロジェクトは2010年、森川さんが所属するNPO法人「世界の医療団」や、池袋で炊き出しなどをする同「てのはし」などが設立。路上生活の経験者たちも参加した。

 夜回りや炊き出しのほか、仲間づくり、生活保護申請の支援を行う。精神科クリニックや訪問看護ステーションとも連携して、福祉や医療につなげる。参加団体は新宿地区にも広がる。

 路上生活に至る人の背景は、幼年時の虐待やいじめ、人間関係の苦しさの経験、仕事の減少、病気やけがなどさまざまだ。その中に、うつ病や統合失調症、発達障害、認知症などを持ち、診察されないままの人が埋もれている。彼らはSOSを出すのが苦手で、支援者を見つけにくい。

 そうした現状を裏付ける森川さんらの医学的調査がある。2008年と09年、池袋駅周辺の路上生活者(248人、平均年齢50歳代)を調べると、精神障害が疑われる人が、それぞれ63%、41%いた。09年調査では、約3割に知的障害が見つかった。

 森川さんは、 鍼灸しんきゅう 師を経て、夜回りに関わりながら日本大学医学部を卒業した。生きづらさを抱えた人々の心情と、感情のコントロールが下手で生きることに悩んだかつての自分とが「共振する」という。人は、弱くてよい。弱さのなかに生きる力が眠っている。型にはめられず、特別視もされず、それぞれが自分のペースで暮らしていける――そんな支援を模索してきた。

 転機は12年。米国の「 ハウジングファースト 」の実践を知ったことだ。まず心身共に安心できる場所を確保し、そこから地域に出て暮らすすべを支援者と一緒になって探す。プライバシーが保てる住まいを、人権と考える。以後、森川さんらの活動の大きな柱になった。現在、計38部屋の個室を用意している。

 08年のリーマン・ショック後、労働環境は悪化している。ネットカフェ難民や、実家を頼れず友人宅に泊まる若者など、安定した住まいがない「ホームレス状態」の人々も精神障害の危うさを抱える。行政主導の集団対応型の施設に移り、就労自立支援を目指しても、適応できずに飛び出す人が少なくない。

 東京23区の路上生活者はこの10年で5分の1の約750人に減ったが、ホームレス状態の人は増加している。弱い立場にある彼らの「選択肢」を奪わず、いかに支えるか。ハウジングファーストの試みは、そのカギの一つとなる。

  ハウジングファースト  ホームレス状態の人が住む場所をまず確保して、自立することを支援する。北米や西欧で広がっている。フランスは国策として取り組む。病気の重症化や薬物依存などを防ぎ、1人当たり300万円の医療費削減につながるとのデータもある。日本では、物件オーナーの理解や資金集めなどに課題がある。(鈴木敦秋)

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