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知って安心!今村先生の感染症塾

コラム

「刻みのり」とノロウイルス

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食品を調べる難しさ

 食中毒の原因となった食品の特定は、しばしば予想以上に難しくなることがあります。食中毒の原因菌によっては、口の中に入ってから下痢などの症状がでるまでに、数日以上かかる場合もあります。そして多くの人は、当日や前日の食事までは思い出せても、それ以上前になってくると記憶もあいまいになってきます。

 一方、複数の人が発症する集団食中毒であれば、みんなが食べている共通食材が原因として疑われることになります。たとえば、グループ全員が一緒に食べた機会があれば、その食事が原因と考えられるでしょう。このようなことから、集団の発生なら原因もわかりやすいのではないかと考えがちです。しかし実際には、予想以上に原因調査が難航してしまうことも多いのです。

 大規模な集団発生では、二次感染の人も含まれてしまうことがあります。このような場合には、二次感染も集団発生することがあり、状況はより複雑になってきます。また、学校や施設、あるいは病院などのような場合には、基本的に毎日同じものを食べているので、その中から原因をさがす必要があります。そして、食中毒の原因が、意外なものであればあるほど、その調査も難しくなってきます。

原因にたどりつくまでの道のり

 今回の事例でも、7つの小学校での集団食中毒が疑われた時点で、共通に食事を提供していた給食センターでの汚染が、最初に疑われることになります。食中毒の症状がでた患者側の便を調べることで、本事例のノロウイルスのように、原因となった病原体がわかります。そうすると、その病原体の一般的な潜伏期間を考えて、食べた給食をさかのぼって調査していくことになるわけです。

 そして、食事や食材が残っている場合には、それらが同じ病原体で汚染されていないかを調べます。さらに、料理をつくる時に汚染された可能性も疑い、調理を行っていた人から採取した便も調査することになります。

まだ残っていた課題

 このように今回の事例では、ノロウイルスによって汚染された「刻みのり」による集団食中毒であったことがわかりました。「刻みのり」は給食センターではなく、他の製造会社で作られています。では、その「刻みのり」を作っている会社では、どの段階でノロウイルスが混入してしまったのでしょうか。一般的には、その製造の過程のどこかで、ノロウイルスに感染した関係者から混入したものと考えられますが、まだ詳細についてはわかっていません。また、同じ時期につくられた製品が、他の地域でも食べられているかもしれません。ひょっとすると、同様にノロウイルスによる食中毒が起こっていて、原因究明に至っていない可能性もあったのです。

意外なところでつながった2つの点

 実は、和歌山県でも1月26日に、複数の幼稚園や小中学校で、ノロウイルスによる800人規模の集団食中毒が発生していました。その時の原因となった食事については、給食で提供された「磯あえ」と発表されていました。

 『 和歌山・御坊の集団食中毒、「磯あえ」からノロウイルス検出

 今回の立川の事例で「刻みのり」が原因とわかったことで、改めて「磯あえ」にも同じ会社から購入された「刻みのり」が使われていたことが判明しました。そして、2つの事例で検出されたノロウイルスの遺伝子型も一致していることが証明されました。あとから発生した事例をきっかけに、2つの別々な点が、線でつながれたのです。

食中毒の調査には粘り強さも必要

 本事例では、親子丼の上に振りかけられていた「刻みのり」からノロウイルスが検出されたことで、焼き海苔に原因があったことがわかっています。その原因の意外さを考えると、原因調査を行った人たちの柔軟な発想と粘りがあったからこそ、わかった結果だと言えるのではないでしょうか。

 今回の「刻みのり」によって起こった集団食中毒事例によって、行政や保健所、そして衛生研究所などの検査機関による、さかのぼり調査の大切さがわかると思います。食中毒の原因調査では、シャーロックホームズのような幅広い視点と、丁寧かつ粘り強い調査が必要となるのです。

広域発生は現代のパターン

 今は、全国に展開するコンビニやスーパー、そして食事のチェーン店も多くあります。また、ネット通販が広がったことによって、全国どこに住んでいても、地方の名産品や食事を食べることができるようになっています。便利さと美食ブームの中で、大規模に広域で発生する食中毒は、現代における食中毒の典型的なパターンともいえるのです。

風評被害にも気をつけて

 このように、今回の事例のような広域の集団食中毒は、現代だからこそ起こりやすくなっている食中毒でもあります。多くの食事をつくっている会社や施設などでは、細心の注意をはらって食中毒対策をとっていることがふつうです。しかし、どんなに気をつけても、ちょっとした落とし穴から集団食中毒が起こることがあります。そして、たった一人の職員の気のゆるみが原因であることも多いのです。

 大規模な食中毒が発生すると、その原因となった食材や会社の名前も報道されることで、製品や会社に風評被害のでることがあります。今回の「刻みのり」を製造している会社は、同じ製造ラインでつくられた類似製品の自主回収を迅速に開始しており、そのことをホームページにも掲載しています。ひとつの会社には、そこに働く人たちがいて、その人たちには家族もいます。みなさんには、そのようなことも決して忘れないようにしてもらいたいと思います。

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今村顕史(いまむら・あきふみ)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。著書に『図解 知っておくべき感染症33』(東西社)、『知りたいことがここにある HIV感染症診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)などがある。また、いろいろな流行感染症などの情報を公開している自身のFacebookページ「あれどこ感染症」も人気。

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2件 のコメント

刻みのりとノロウイルス

ねずみさん

今回のケースについてはもう少しなぜなぜ問答を深め、なぜどのように汚染されたのかの真の原因を報じてほしい。

今回のケースについてはもう少しなぜなぜ問答を深め、なぜどのように汚染されたのかの真の原因を報じてほしい。

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ヒデ

今回の食中毒の概要について理解できました。テレビ等で報じられた「私が素手で作業をしました」と言う男性について、「ここ数か月の間にその男性(または...

今回の食中毒の概要について理解できました。テレビ等で報じられた「私が素手で作業をしました」と言う男性について、「ここ数か月の間にその男性(またはそのまわりの人)がノロウイルスに汚染された症状があったのか、どうなのか」を調査の結果を報じてほしいと思います。

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