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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

医療・健康・介護のコラム

ゆるっと楽しく離乳食をすすめましょう(1)

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ゆるっと楽しく離乳食をすすめましょう(1)

赤ちゃんからお年寄りまで、みんな大好きなイチゴの季節になりました

 在宅訪問栄養指導を始めたころの話です。ある寝たきりの高齢女性患者さんを訪れたとき、介護をしている60代の娘さんがため息交じりに言いました。

 「せっかく手間暇かけて作った食事を、おかあさんたら食べてくれないのよ。口に入れると、ぺっと出されてしまったりして。せっかく作ったのに……どうしてかしら?」

 この言葉を聞いた瞬間、「あれ? このセリフ、どこかで聞いたことがあるなあ? しかも私も似たようなことをつぶやいたことがある気がする……」と急に懐かしい気持ちになりました。そして気づいたのです。「ああ、そうだ! 離乳食だ!」と。

 長女に初めて野菜のペーストを食べさせた時のことです。 人参にんじん を指でつぶせるくらいに柔らかく煮てから、裏ごしし、ペースト状にして、昆布で取っただし汁で伸ばしたものをスプーンで食べさせてみました。「ほら~人参だよ~、甘くておいしいよ~」と声をかけながら。長女はいったん口に含みますが、しばらくすると「べぇ~」と出してしまいました。口の周りにオレンジ色の人参がべったり。

 「ああ~あ、もう! せっかく苦労して作ったのに! なんで出しちゃうのよぉ」と私。

 今は寝たきりのこの患者さんも60年前に、娘に同じ言葉を発していたかもしれません。長い年月をかけて立場が入れ替わっているかもしれないことを目の当たりにして、不思議とほっこりした気持ちになりました。いつか私も、両親に食事介助をする時がきたら、「今度は私が食べてもらう番だよ」と優しい気持ちで食事の介助ができる気がします。

 「離乳」とは、「お乳だけに頼っていた赤ちゃんに、なめらかにすりつぶした状態の食べ物を与え始め、しだいに食物の固さと量、種類を増やして幼児の食事に近づけていくこと」です(仙台市の母子手帳より抜粋)。

 母乳やミルクは生後6か月までの赤ちゃんにとって理想の栄養源です。しかし、赤ちゃんが成長するにつれて、母乳だけでは栄養不足になることも分かっています。いつまでも母乳を飲ませてもよいという考え方もありますが、幼児食に移行できないほど母乳に依存してしまうのは問題です。

 それでは、幼児の場合、どんな栄養素が不足しやすくなるのでしょうか。

 まず挙げられるのは、子どもだけでなく大人も不足しやすい「鉄」です。鉄の摂取量が不足して「鉄欠乏性貧血」になると、体内の細胞に必要な酸素が行き渡らなくなります。これは子どもの成長に大きな影響を与えます。運動機能や認知機能にも関わりのある鉄は、どの年代の人にも重要な栄養素と言えます。

 赤ちゃんは、お母さんのおなかの中に入っている間に、鉄を体内に貯蔵しています。およそ生後4か月まではため込んだ鉄を利用しているのですが、「鉄の貯金」がなくなり始める生後6か月頃から、鉄欠乏性貧血を起こしやすくなるのです。

 したがって、生後6か月頃からは、徐々に離乳食を開始して食べられる食品を増やし、不足しがちな栄養素を補っていくことが大切です。

 離乳食を始めるときには、まず食物アレルゲンになりにくい食品(お米・野菜など)から開始して、徐々に豆腐や白身魚を与えます。生後7か月頃、おかゆだけでなく、いろいろな食品が取れるようになってきたら、意識して鉄を多く含んでいる野菜(青菜類)や肉類をメニューに加えてみましょう。ただし、青菜類には鉄の吸収を抑制する「シュウ酸」も含まれています。シュウ酸は水に溶け出しますので、 でこぼして水にさらせば取り除けます。さらに鉄の吸収を促進する「ビタミンC」を多く含むフルーツ類も1品加えると良いでしょう。今の季節でしたら、「ほうれん草のおかずと潰したイチゴ」などの組み合わせがおすすめです。

 生後9か月頃からは「フォローアップミルク」を離乳食に活用する方法もあります。

 フォローアップミルクとは、新生児期に与えるミルクとは栄養成分が異なり、離乳後期に不足しやすい栄養素を強化したミルクです。しかし母乳育児の赤ちゃんは、母乳に慣れてしまうと哺乳瓶を嫌がりますので、そのままではなかなか飲んでくれません。そこで、料理やおやつに活用するのです。例えば、「ほうれん草と さけ のミルク煮」や「蒸しパン」などを作るときに、牛乳の代わりにフォローアップミルクを使えば、不足しがちな栄養素を補えます。

 私も、離乳食中期~後期にかけては、それまで使わなかった粉ミルクを活用し、鍋にまとめて離乳食を作り、小分けにして冷凍保存していました。

 お母さんの中には、離乳食作りにプレッシャーを感じてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、毎日摂取した栄養量を計算することはできませんし、する必要もありません。もし、べーっと口から出されてしまっても、落ち込まないで下さい。一生、母乳やミルクを飲む人はいません。そして、離乳食作りに疲れてしまった時には、市販のレトルト離乳食をおおいに活用して、赤ちゃんとの離乳食タイムを楽しんでください。

 参考文献
 『日本人の食事摂取基準2015年版』(第一出版 菱田明、佐々木敏監修)
 『七訂食品成分表2016』(女子栄養大学出版部 香川芳子監修)
 『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(メタモル出版 森戸やすみ著)

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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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