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松永正訓の小児医療~常識のウソ

コラム

夜尿症は自然に治るので放置でいい?

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夜尿症は自然に治るので放置でいい?

 私は、自分の人生最後のおねしょの光景を今でも (おぼ) えています。5歳の頃です。ある時、母の友人宅へ泊まりで遊びに行ったのです。子どもたちで遊ぶ夜はたちまち更けて、私はいつもと同じような時刻に床につきました。母と離れて眠るのは少し心細かったのですが、たちまち深い眠りに入っていきました。翌朝、私はパンツの辺りがゴワゴワしている違和感で目覚めました。母の友人が、「昨日の夜、おねしょしたのよ。寝ぼけてたから、憶えてない?」と () いてきました。私はオムツを着けていたのでした。

 そのうち、母が迎えにやって来ました。替えの下着を持ってきてくれていました。大人たちは、私のおねしょをネタに笑い合っていました。私は、よそ様でおねしょをしてしまったこと、それを憶えていなかったこと、そしてオムツを 穿() かされていたことで、顔が真っ赤になってしまいました。

 さて、一般的には4歳までにはオムツが取れるといいます。したがって4歳までのお子さんが夜間に尿を漏らしても、それはおねしょと言います。そして5~6歳になっても、月に数回以上の夜尿が数か月続くのであれば、それは夜尿症と言います。「症」という文字が入っているのは、医療の世界では「通常ではない」と定めているからです。今日は夜尿症の話をします。

夜尿症の専門家はどこにいるか?

 今から30年前、私が研修医の頃、夜尿症は治療の対象になっていませんでした。理由は、いつか必ず自然に治るからです。従って、夜尿症の専門家という医師はまずいませんでした。

 そもそも、当時、小児を専門とする泌尿器科医というのは日本に数える程しかいませんでした。大人の泌尿器科の先生は、がんや前立腺肥大の手術、尿路結石の治療を主に行います。一方、小児泌尿器科医は、腎臓から尿道までの先天奇形の手術をします。小児泌尿器科医のいない地域では、小児外科医がこの役割を果たします。

 つまり一昔前の日本では、夜尿症に積極的に取り組む医者自体が極めて少なかったのです。現在ではその風向きはかなり変わっています。小児泌尿器科医も夜尿症の治療をしますが、それ以上に開業小児科医が夜尿症に熱心なように私には思えます。なぜでしょうか? それはやはり夜尿症に悩んでいるご家族が多く、かかりつけ医である小児科医に相談するからでしょう。

 確かに夜尿症は自然治癒傾向がありますが、宿泊学習や合宿などは夜尿症のお子さんにとって精神的な負担になるでしょう。きょうだいで、下の子が先におねしょを卒業して上の子に夜尿症があると、とてもつらい気持ちになります。つまり夜尿症は子どもの自尊心を傷つけるのです。ちなみに夜尿症は女の子よりも男の子に多い傾向があります。

 夜尿の治療を行うと、全員がただちにピタッと夜尿が止まるわけではありませんが、無治療のお子さんと比べると大きな改善率の違いが出ます。小学生になっても、週に1回以上の夜尿がずっと続くのであれば、かかりつけの小児科医に相談してはどうでしょうか? 以下に夜尿症の治し方を見ていきましょう。

夜尿症はなぜ起きるか

 5~6歳になると、夜間睡眠時に 膀胱(ぼうこう) の容量が増加し、尿が濃縮されて尿量が減り、尿意を感じれば目が () めます。夜尿症はこの三つがうまく働かないと考えられています。つまり、膀胱容量が拡大しない、尿量が減らない、尿意を感じても目覚めないわけです。実際、夜尿症のお子さんは、夜尿をしてもそのまま眠っていることが普通です。以上の三つのキーワードはあとでまた出てきますので、ちょっと憶えておいてください。

尿量を測定する

 最初に行うことは、尿量の測定です。2種類の尿量を測定します。最初は「夜間尿量」です。

 夜尿のお子さんにオムツを着けるかどうかは、お子さんの年齢にもよりますので、一概にどうするべきかは言えません。しかし「夜間尿量」を測る日はオムツをしてください。朝になったら、オムツにしみこんだ尿量を (はかり) で測定します。そして起床後すぐにトイレへ行って、ペットボトルに排尿してもらいます。この尿量も測定します。オムツ尿とペットボトル尿の合計が「夜間尿量」というわけです。

 平均的な「夜間尿量」は、小学1~3年生では、200ml以下です。4年生以上であれば、250ml以下です。この基準をオーバーするのであれば、お子さんは「夜間多尿型」と言えます。

 次に行うのが、「がまん尿」の測定です。自宅で週末などを利用して、できるだけ排尿をがまんして限界になったらペットボトルに尿を出してください。この尿量が「がまん尿」です。小学1年生なら、150ml以上です。2年生ならば、200ml以上です。3年生以上なら、250ml以上です。この基準を下回るのであれば、お子さんは、膀胱容量が少ない「膀胱型」と言えます。膀胱の壁は平滑筋でできていますが、この平滑筋が硬くなっていて伸縮しないわけです。

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松永 正訓(まつなが・ただし)

 1961年、東京都生まれ。1987年、千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰(1991年)など受賞歴多数。2006年より、「松永クリニック小児科・小児外科」院長。

 『運命の子 トリソミー  短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて2013年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『子どもの危険な病気のサインがわかる本』(講談社)など。

 ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

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1件 のコメント

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放置してても治るは本当かも。

taka-

私は中学3年迄毎晩おねしょをした。母はそのうちに治るよと意に介せず医者にも行かず夕方以降の水も制限しなかったし、私も悪びれず卑屈にもならず学校に...

私は中学3年迄毎晩おねしょをした。母はそのうちに治るよと意に介せず医者にも行かず夕方以降の水も制限しなかったし、私も悪びれず卑屈にもならず学校に通った。所が或る晩遺精を経験してからはピタリと治って自分も家族も驚いた。成人し会社に入り友人達にその事を話したら、いや、実は俺も・・・と頭を掻いたのが何人かいた。人には内緒だがおねしょしている子供は案外多いですよ。

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