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小泉記者のボストン便り

医療・健康・介護のコラム

病院で新鮮な野菜や果物を無料提供 注目のフードパントリー

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病院内で料理教室も開催

 同病院では、健康的な食料を提供するだけでなく、健康的な調理方法も知ってもらいたいと、院内に「デモンストレーションキッチン」を設置しています。子どもがいる家庭向けのプログラムや糖尿病、減量、がんのリハビリ食などの患者の状態に合わせた料理教室がほぼ毎日無料で開かれています。

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患者に説明をしながらサラダを盛り付けるバーグさん

 「今日は脂肪分の少ない七面鳥のひき肉を使ってハンバーガーを作ります。牛肉を使わなくても、ソースに一工夫を加えればジューシーでおいしいですよ」。同病院の栄養士、トレイシー・バーグさんは、減量が必要な人のためのクラスで、集まった患者たちに話しかけながら、手際よく調理を進めます。レストランでシェフとして働いていたこともあるバーグさんは、パントリーで提供される食材を使って、季節ごとに様々なレシピを考案しています。「患者の中には調理する習慣がない人も多く、新鮮な食材があっても、調理方法を知らなければ効果は半減してしまいます。パントリーと料理教室がセットになった取り組みは、全米でも例がなく、各地からいろいろな人が視察に来ます」と胸を張ります。

 患者の中には、揚げ物など塩分が高くこってりとした食品を食べ慣れている人も多いといいます。そのため、バーグさんは、油で揚げる代わりに少しの油で炒めたり、手に入りやすい調味料を少しずつ組み合わせたりすることで、油や塩を控えめにしてもおいしい料理が作れることを強調します。「今日はソースにヨーグルトを使います。市販のチリソースを少し足すと、コクが出て満足感がありますよ」。バーグさんが料理のポイントを説明すると、患者は熱心にメモをとっていました。料理教室に定期的に参加している女性(44)は、クラスに参加するようになってから2キロ体重が減ったそうです。女性は「料理教室のレシピで作ると野菜がおいしい。今までは揚げ物を食べないと物足りない気がしてたけど、今はなるべく野菜と肉を炒めたり蒸したりしてバランスよく食べるようにしている。目標にはまだまだ遠いけれど、自分の中では大きな進歩」と話していました。バーグさんのクラスに参加する患者の中には、体重が減り、肥満対策の手術が必要なくなった人もいるそうです。

 ヒララルさんは、「患者の行動を変えるのには、時間や労力が必要です。でも、一度習慣として身につけてもらえれば、一生もので、長期的にみれば医療費の削減につながると思う。この取り組みが各地に広がるように支援をしていきたい」と話し、積極的に全米各地の病院からの視察を受け入れています。

「健康格差」解消のための取り組み各地で

 貧困が健康に与える悪影響については、様々な研究で明らかになっています。昨年4月にスタンフォード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)、ハーバード大学の研究者などが発表した 研究 では、2001~14年にかけて延べ約14億人の米国人を対象に収入と寿命の関係を調べました。その結果、収入が多い人は長生きで、収入が少ない人は寿命が短いことがわかりました。男性は収入が多い最上位1%の富裕層の平均寿命は87.3歳、収入が低い最下位1%の低所得者層の平均寿命が72.7歳で、14.6年も寿命の格差が生じていました。女性は、88.9歳と78.8歳で、10.1年の差がありました。さらに、この寿命の格差は近年広がっていることもわかりました。

 身体によい食料を手に入れやすくすることは、健康の格差を縮める取り組みの一つで、同センターのほかにも、様々な民間機関や、自治体でも試行錯誤が繰り返されています。ニューヨーク市では、低所得層の人たちが新鮮な野菜や果物を取り入れやすくするため、生鮮食品を扱うスーパーが少なく肥満や糖尿病の率が高い貧困地域で出店する企業に、税の優遇措置などの支援をしています。

 貧困対策に詳しいニューヨーク大学のべス・ワイツマン教授は、「健康的な食べ物が手に入りやすい環境を整えることは重要だが、それだけでは人の行動や生活の様式は変わらない。低所得層の人たちが野菜や果物を食べない理由には、長時間労働のために料理をする時間がなかったり、調理法を知らなかったりすることも多く、複合的な支援が必要。どのような取り組みが有効なのかについてのデータも不足しており、取り組みと検証を続ける必要がある」と話しています。ボストンメディカルセンターでも、フードパントリーが患者の食習慣などの改善にどのような役割を果たしているのかについて、詳しい研究をすることにしています。

日本でもフードバンクが徐々に普及

 フードバンクの取り組みは、日本でも広がりつつあります。農林水産省の2014年の調査では、約40団体がフードバンクを運営し、その後も団体は増えています。フードバンクを活用し、地域の子供たちに食事を無料で提供する「こども食堂」を運営する例も広がっています。

 患者の治療だけではなく、食習慣を変えることで長期的な健康を目指す同病院の取り組みは、とても興味深かったです。健康の格差の対策には、行政や病院、民間の組織などが協力した取り組みが不可欠だと思いました。

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koizumi

小泉 朋子(こいずみ・ともこ)
2003年読売新聞東京本社入社。金沢支局、編成部を経て、2009年から社会部。10年から厚労省担当となり、生活保護受給者の増加の背景を探る「連載・生活保護」や認知症の人を取り巻く状況を取り上げた「認知症」などの連載を担当。13年から司法クラブで東京地・高裁、最高裁を取材し、「認知症と賠償 最高裁判決へ」「隔離の後に ハンセン病の20年」の連載など担当。2016年7月からハーバード大学公衆衛生大学院に研究員として留学中。

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